「100title」 /「嗚呼-argh」
ひらひらと。
闇に舞い降りるのは、地獄という名を冠する蝶。
告げるのは死を纏う者たちの訪れ。
導くのは別離。
ならば、それを待つ俺はきっと。
蝶
「久しぶりだな」
と手を伸ばしてみると、
「そうでもねえぜ」
と恋次は一歩引く。
過ぎる時間の価値が違うのだと暗に告げられて、俺は頭を垂れる。
すると恋次は、首を傾げる。
またしても意思の疎通ならず。
知らず口元が歪む。
部屋の隅には、漆黒の蝶。
道先案内を務めるそれは、立てた指に舞い降りた。
そして、その薄い羽の力を見せ付けるようにゆらりゆらりと揺らしてみせる。
遂にくつりと笑いが漏れた。
圧倒的な力を持つ死神たちも、理は覆せない。
この薄い羽に護られないと、現世への来訪さえ儘ならない。
「なあ、恋次」
「なんだ?」
指先に止まらせた蝶を見せても、恋次の視線は素通りする。
そして俺をただ見つめてくる。
だから俺は、準備していた言葉を吐き出せない。
「・・・なんでもねえ」
「そうか」
無事に役割を果たした蝶は、俺の指を見捨てて虚空に舞い、消えた。
恋次が帰還を望み呼ぶ、その時までどこに潜んでいるものか。
ならば、この蝶がまた姿を現したとき、消してしまおうか。
そうしたら恋次は、ここに留まるだろうか。
くつくつと笑うと、恋次が視線だけでその意味を問うてきた。
だから俺は、なんでもねえよと触れていただけの口唇を緩く絡ませる。
なのに恋次は騙されない。
唇を離して、ゆっくりと大きく俺を抱きしめる。
狡ィよな。
そう思ったけど、言葉は言葉にならず、
あの蝶の漆黒の羽のように闇に溶けて消え去った。
>> 魚
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