鴉の理 3
「テメー、俺が見えるのか」
赤銅色の眼が一護を見据えてきた。
まるで発光しているみたいだ、と一護は思う。
こんなにここは薄暗いと言うのに、なぜ眼だけがこんなにくっきりと見えるのだ。
その姿は影そのもののように闇に溶け込んでいるというのに。
「なんだ、今度は口が聞けなくなったか」
紅い両眼の下、白い歯が光った。
牙のように見える尖った歯並びに、一護はひどく嫌な気分になった。
「・・・見えるし口も聞けるぜ。そんなことを訊いてくるテメーは何者だ」
一瞬の沈黙の後、赤銅の眼の男は呵呵と笑った。
「ずいぶんと元気な餓鬼だな。・・・それに変な髪をしている」
余計なお世話だ、染めてるわけじゃねえ、これは地毛だといつもの反論を繰り返そうと一護は口を開きかけた。
だがその時、闇の中心の影は、ゆらりと揺らめいた。
それが身を起そうとしているのだと気がつき、一護は一歩下がった。
ぎしり、と軋む音が聞こえた気がした。
まるで機械仕掛けの人形のように、影はギクシャクと立ち上がった。
周囲の白いものがカラカラと乾いた音を立てて崩れ落ちる。
一体、どれぐらいコイツは此処にこうして座っていたのだろうと一護はふと思った。
影は白いものに構わず歩を進める。
そのたびに、パキッ、カラン、と軽い音が洞の中に響いた。
・・・これは、骨だ。
闇に慣れた一護の眼が、影の周りに散らばるものの正体を捕らえる。
細いのも平たいものも大きいものも小さいものも、全部骨だ。
影の周囲に薄く青く燐光を放っている。
鬼火。
そんな言葉が浮かんだ。
あの影の眼が反射しているのは鬼火。
青白く燃える火を紅く返して、爛々と燃え盛る。
瞬きもせず、唯々、一護を見据えてくる。
口元は歪み、ちらちらと白く尖った歯を見せている。
間に木の根があるとはいえ、僅か数メートルの距離。
我知らず、一護はまた一歩下がった。
くつくつと影がわらう。
「なんだ、逃げるのか、小鬼」
嘲りの色濃く、嗤いを深める。
「怖いか。そうだよな。でも俺の姿が見えるんだろう?」
ぬっと、根の格子の隙間から、手が突き出た。
骨ばったその手には、真白の肌に闇を押し固めたような黒い奇妙な文様が纏わりついていた。
掌を下にして突き出された手は、ぐるりと廻った。
ゆっくりと掌が開かれる。
そこにも黒い文様。
直線と曲線が組み合って奇妙なうねりを生み出していた。
「くれよ、テメーの命」
手に魅入っていた一護は、はっとその声に面を上げた。
頭一つ分ぐらい高い位置に、赤銅色の一対の眼。
一護の顔を、静かに見下していた。
「いらねーんだろ? じゃあ、俺にくれ」
そう言って、眼を見開いたままニィッと影は笑った。
闇よりも濃い長い髪が、その無邪気な笑顔を縁取っていた。
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