三つ子の魂は永遠に!  



「・・・・っというわけで、よろしくお願いしますね、黒埼サン!」
「オイ、ちょっと待ってくれよ!
 なんで俺が恋次の義骸の世話なんかしなきゃいけねーんだよっ?!」

にたり、と浦原さんが笑う。

「そりゃー別に他の人にお願いしてもいいんですけど、でもイイんですかぁ?
 こんなカワイイ阿散井さん、他の人に任しちゃって。何か間違いあっても知りませんよー?」

まーでもイヤってんだったらしょーがないですねーと恋次@義骸の手を引いて踵を返そうとしたから、つい、

「ちょっと待て!! 分かったから!」
「じゃーお願いしますねー。3日後に引き取りにきます。
 それなりの報酬出しますんで完全体にして納入してくださいねー!」

不祥事ナシの方向でよろしくー、とゲタの音も高らかに浦原さんは帰っていった。

オイその不祥事ってなんだ、不祥事って!
まさか浦原さん、俺たちのことを知ってるのか?!
つーかさすがの俺も幼児に手を出すほど飢えてねーぜ!!
ぐるぐる廻る疑念と怒りはともかく、差し当たって問題なのはこのチビ。
見下ろすとミニチュア版、いや、子供版恋次の義骸。
3、4才ぐらいか?
面影があるっつーか、ありすぎるっつーか。

「つーか予算不足ってなんだよそれ・・・」

義骸作成ってーのは案外コストがかかるらしく、
旅禍来襲(俺たちだ)の際にめちゃくちゃ壊れて財政難に陥ったのソウルソサエティとしても
予算圧縮を図るために義骸生産効率化を進めてるんだそうだ。
で、打診された先は当然、浦原@変態だが腕は確か、な訳だ。
まあ今回の騒ぎの黒幕でもあるわけだし。

そういうわけで、ごく普通の常識を持たない浦原さんは快諾、
その超一流の技術とヘンタイ脳で、幼生義骸なるものを作り上げた。
そりゃーもうあっという間に。

髑髏印がついた丸薬状の成長促進剤を飲んで、
あとは普通に生活してれば、恋次の場合は三日で成体化するらしい。
なんでも本人に似せた義魂みたいなのもオートで入っているんで、
義魂弾を打ち込まなくていいってのも便利だ。
つーかぶっちゃけ、チャッピーみたいなのが入らないので(俺にとって)安全だ。
まーその辺は100歩譲ってスゴイと言おう。
着眼点もイイと言おう。
でも何で俺が、面倒見なきゃいけないんだよ!!!

“だって店にはもう5体ほどうろついてるんですよー?
 なるべくガラの悪いの、いやいやコレは失言、元気なのは別栽培したほうがいいじゃないですかぁ。
 幸い黒崎サンは阿散井サンの扱いには慣れてますしー。“

浦原さんの怪しげな目が帽子の下、キラキラと楽しそうに輝いてた。
あれは絶対、何かを隠してる目だ。絶対そうだ、あのヘンタイ!!

“大丈夫ですよー。ちゃんとパーソナリティは初期化してあるし、刷り込み機能もついてるんで、
 ほら、目を開けて一番最初に見たものに懐くから扱いも楽ですよー”

プイっとそっぽを向いたままのクッソ生意気そうな赤毛のガキを見てため息をつく。
ぜんっぜん懐いてねーよ!

また最初っからやり直しかよ。
面倒くさいんだよ、恋次はイロイロとよ。
それにしても懐かなさそうだなぁ。
三つ子の魂、百までってか?
そんな俺の悩みを知ってかしらずか、
下からじろっと見上げてくるその目つきの悪さはますます俺を暗澹とさせるに足るもので。

「ハラヘッタ。メシ!・・・イテッ!!」
「年上への口の聞き方は気をつけろよガキ」
「ウルセーっ!!」
「・・・・・イッテェ!!」

あんのクソガキ。俺の脛に蹴りいれやがった。
こうなったら徹底してシツケてやる!!





ひとんちの台所でガツガツと飯をかっ食らう3歳児を見て思う。
たった3日間とはいえ、俺が父親みたいなもんだ。
そして義骸+義魂とはいえ、相手は恋次なことには変わりねー。
つーことは「紫の上」大計画のチャンス?
妄想の中を従順な恋次の姿が横切る。

俺のことを蹴ったり殴ったり蔑ろにしないそんな恋次。
ヤル気になった俺を尻目に「面倒くせぇから」の一言でトンズラしない恋次。
むしろヤル気になって控えめに誘ってくる恋次。
つーか抵抗にならない抵抗ってヤツをしながら煽ってくる恋次。
そんな恋次がもしかしたら育つんじゃねーか?!

・・・・・いや待て、俺。
そんなありえないレベルは望んじゃいけねー。
ちょっと。
ほんのちょっとだけでいいんだ。
気が向いたときだけ勝手に来て食い散らかして襲って帰るんじゃなくて、
もうちょっとこう繊細というか俺の出方も見てくれるというか。
敢えて言うならもうちょっと俺の気持ちを汲み取ってくれるって感じか?
つーかどこまでカワイソウなんだ、俺。

「オッサン、オカワリ」
「オッサンじゃねー!」

そんな俺の深い悩みも知らず、恋次@義骸は一心不乱に喰う。
俺のことなんか、かまっちゃいねー。
これじゃあ本体と変わりねーじゃねーか。
このまま行ったら、喰う寝るヤるの三大欲オトコに育つこと間違いない。

ヨシ!
ここはこの黒崎一護に任しておけ!
オマエを本体よりよっぽど立派な男の中のオトコにしてやる!
俺もこんな態度じゃいけねー。
もっと威厳を持って、父親らしく。

「・・・・パパと呼びなさい」

俺は精一杯の威厳を込めて言った。
俺のことを尊敬させて、でもちょっと照れ屋っぽいオトコにする!
そんで3日後には立派な息子、いや、恋人@二号さんの出来あがりだー!!

「何呆けてんだオッサン。早くメシくれよ」
「パパだっつっただろーがっ!!」

けっとソッポを向く恋次@義骸。
・・・・・早くも挫折か?
いやだめだ。ここでヘタレるな。
がんばれ俺!



 
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