「ちょっとアナタ、この子を誘拐する気?」
「そうよ、警察呼ぶわよ!!」
屋根から地上に降り立った途端、おばさんたちに取り囲まれた。
顔が真剣でコワイ。でも負けてらんねーし!!
「この子は俺の子だ! だから連れて帰るんだ! 悪いか?!」
「だってどうみたってキミ、高校生? 大学生・・・じゃないわよね?
こんな大きい子のお父さんのわけ、ないじゃないのねえ?」
おばさんたちが顔を見合わせ、苦笑する。
「それにその子さっき、お母さんは遠くに行っちゃったって言ってたわよ?」
「亡くなったの? それとも逃げちゃったの?」
「ちゃんと施設に預けたほうがいいんじゃないの?」
「とんでもないお母さんよね?」
「まあ、お父さんがこんな子供じゃね。・・・あら失礼?」
「ねえ? 髪まで染めちゃって可愛そうよ、小さいのに」
・・・・・うるせえ。
なんかブチっとアタマの中でキれた音がした。
「別に死んでねーし、振られてねーし、
コイツも置いてきぼりくったわけじゃねー!
アイツは出張に行ってるだけだっ!
確かに俺の子供じゃねーけど、好きなやつの子供だから俺が父親だっ。
ついでに言やあ、コイツも俺も髪は地毛だっ。
なんか文句あっか?!」
一気におばさんたち、静まり返る。
・・・・・し、しまった。
こんな所で宣言しなくてもこんなにアレな内容の青年の主張・・・。
「・・・・・・えらいっ!」
「見上げたもんだわ。最近の若者もやるわね」
「日本の将来も安泰ね」
「その年上の彼女さん、大事にね」
「早く帰ってきてくれるといいわね」
抱っこしたままのチビがぎゅっと首に抱きついてきた。
それを見たおばさんたちは引き気味ながらも納得した様子で、波が引くように去って行った。
おいしいわね若いツバメとか、淫行じゃないのとかいう声も聞こえたけど。
・・・・・でももういいっ。
もう何もなかったことにする!
「オラ、帰るぞ! もう逃げんじゃねーぞ」
チビを肩車すると、今度は大人しく頭にしがみついて、
機嫌よく足をバタバタし始めた。
「おい、アブねーだろ! じっとしてろって」
「なあ。ツバメって何だ?」
「・・・・・鳥だ、鳥!」
「ふーん。それ、若いとうまいのか?」
「・・・・・ある意味な」
「でもなんでオッサンが鳥なんだよ。インコーってなんだ?」
よく聞いてるな、コイツ。後で記憶置換しとくか?
「・・・・・ああ、それも鳥だ! ちっさくてかわいいインコって鳥!
つーかオッサンって呼ぶのやめろ!」
とにかくここはごまかさないと。
家に帰ってそんなこと訊かれた日にゃあ、
偉大な兄貴としての俺の立場ってモンが台無しだ。
「オイ! 見ろよ、鯛焼きだ。買ってくか?」
「・・・・・タイヤク?」
「タイヤキだ。知らねえのか? お母さんの大好物だ。食うか?」
「・・・・・うん」
焼き立てのを一個だけ買って渡す。
メシの前だからな。
「ほら、食え」
「オッサンは?」
止めろよ、そのオッサン呼ばわり。
斬月のオッサン思い出すじゃねーか。俺はまだ高校生だぞ?
「オッサンはやめろ? 俺はいいからテメーが食え」
「ハイこれ、オッサンの分!」
ああ、聞いちゃあいねえ。
でも頭上に差し出された鯛焼きの頭の方がチビの気持ちを表していて、
もうオッサンでもパパでもオヤジでもどうでもいいような気がしてきた。
くそ。
恋次に見せてやりたいぜ、この思いやり。
いつも独り占めして、たまにくれても食べ残しとか、
アンコの入ってない尻尾だけだもんな。
子供の純粋な愛情表現、テメーもちったぁ見習いやがれ!!
「うまいか、鯛焼き?」
「うん。スゲーうめー!」
「そっか。良かったな」
甘い匂いがぷんと漂う。
「あ、手がべたべたになっちゃった・・・」
どういう食べ方したらベタベタになるんだよ。
ってそうか、半分に割ったんだったな。
俺の手には半分にブッちぎれた鯛焼きのアタマ。
小さい指の跡が付いてる。
くそ。なんかしんみりするじゃねーか。
鼻の奥がツンとしてきた。
ってなんか頭の上がもぞもぞする。
「あ、バカ! 髪で手をふくな。やめろ!」
ゲラゲラ大爆笑しながらチビは俺の髪を掻きまわす。
「やめろって! オイ、やめてくださいっ! お願いっ!」
やっと子供らしく大笑いするようになったチビ恋次が可愛くてしようがなくって、
俺はすっかり親子ごっこの泥沼にはまってることを自覚してなかった。
三つ子の魂は永遠に! 6 >>
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