さて。
メシも食ったし、風呂も入ったし、
髪にくっついたアンコも取れたし。

「ほら、拭くからじっとしてろ」

風呂上りの三歳児はほかほかと体中から湯気を立ててる。
つーかでかい腹だなあ。よく食ったからなあ。
体中ぷにぷにでほかほかで、肉まんみたいだよな、なんか。

チビは泡風呂で大騒ぎだった。
泡をすくって投げたり、食ってみたり。
体を洗ってやろうにも泡でつるつるだから捕まえるのに苦労した。
洗ったら洗ったで泡だらけだから流したがらなくって、
結局、お湯を頭からぶっ掛けたら、目に染みたのか今度は大泣き。
でもコイツが泣くの、初めてだ。
俺に置いてきぼりくらったときも、逃げ出して屋根の上で一人だったときも、
泣いてなんかいなかったのに。
なんかどんどん子供らしくなってきた気がする。

「ほらパンツ。これ穿け」

恋次もだけど、塗れた髪を拭いたタオルが赤くならないのがやっぱり不思議な気がする。
って俺もオレンジ色だけど、こんなに強い色じゃないし。

「パジャマはないから俺のTシャツでがまんしろな?
 おっきいけどパジャマにちょうどいいぞ?」

チビは渡されたものをじーっと見ている。
遊子か夏梨のお下がりパンツ。あって助かったよ。

「・・・・・オレ、ヤダよ、こんなの」

泣きそうな顔。
まあイヤだろうな。俺でもやだ、こんなパンツ。

「・・・・・しょーがねーだろ、ないんだから! それともフリチンでいるか?!」

途端、ニヤリとチビが笑った。悪い予感。

「あ、こら、パンツかぶるなっ、逃げんなコラッ!!」
「あーー! あたしのパンツ被らせてるー!! お兄ちゃんのヘンタイっ」
「俺じゃねーよっ!!」
「よーしじゃあお父さんもかぶっちゃうぞー!」
「うるせー、このクソオヤジ!! テメーは一生ヘンタイやってろっ」
「うわぁ、痛いです夏梨ちゃんッ!! 息できませんッ!! ギブですギブッ!!」
「夏梨ちゃんもおとーさんもやめて! おうち壊れちゃうよーー!」

「ああもうっ! ウルセーッ!!」

何でいつもうちはこうなんだ!!
もっと普通に出来ないのか?!
最初はきょとんとしてたチビもいつの間にか馬鹿笑い。
嬉々として夏梨に加勢してオヤジを締めるのを手伝ってる。

「はっくしょっ」
「ほら、湯冷めするぞっ! 服着ろっ!」

また逃げようとするチビに無理やりTシャツとパンツを着せ鼻を拭いて、
二階の俺の部屋に連れて行く。手間が掛かるもんだ全く。
でもって部屋に入ったら部屋に入ったで、今度はうっかり動いてしまったコンに大興奮。

「うわあ、動いてる!」
「なんだこのイヤな色合いのガキは? ・・・・・なんか心の傷が疼くぜ」
「しゃべってる!!!」
「やめろ! 気安く俺様のスーパーボディに触るんじゃねー!
 っていやぁぁ、やめてくださいぃぃぃ!」

チビはあっさりコンを捕獲し、耳をつかんだり、口の中に指を突っ込んだりしてる。
興味津々って感じだよなー。
動物観察とかさせたら徹底しそうな感じだよなー。
そういえばコイツ、結局のところはコンと同類なんだよな。
義魂だから。
恋次がコイツの体使うときは、コイツの魂はどこに行くんだろう。
やっぱりヌイグルミに入るのかな。
チビが義魂玉として体からはじき出され、
ぬいぐるみに入れられるのを想像したら、なんかすごく厭な気分になった。
ぶんぶんと頭をふって、そのヘンな想像図を頭から追い出す。

それにしてもチビ、すっかり遊子や夏梨にも懐いて上機嫌でよかった。
なぜか親父にも懐いたのが納得いかないが、
あいつはあいつで面白いイキモノだから珍しいのかもしれない。
ってか純粋に構われるのが嬉しいって感じだったよな。
子供ってそんなだっけ?
最初会った時、あまりにも警戒してたから、
こんな風に普通の子供みたいにくつろぐなんて思ってなかった。

それにしても疲れた。
部屋に戻るとなんか一日の疲れがどっと出た気がする。
すげー濃い一日だったよ。
・・・・・なんか忘れてるような気がするけど、ま、いっか。

「ほらチビ来い」

まだ遊ぶと駄々をこねるチビからコンを取り上げると、
コンはバカヤローと泣き叫びながら窓から逃げて行った。
ま、その気持ちはわかるけどな。

「子供はもう寝る時間だぞ?
 俺も一緒に寝てやるから、ほら来い」

無理やり布団に引きずり込むと、まだ眠くないと言い張ってジタバタしてたけど、
やっぱりコイツも疲れてたんだろう。
背中を叩いてやってるうちに俺の脇の下のとこで丸くなって眠ってしまった。

ちっさくって温かい。それに子供って呼吸が速いのな。
なんか甘い匂いがするのはなんでだろう?
コイツは恋次とは別モノだけど、
でも外見で言えば恋次の小さい時はこんなだったんだろうな。
厳しい環境だったみたいだから、
こんなに丸々と太ってはいなかったんだろうけど。
毎日、寝る場所とか食べるものとか探してたのかな。
ルキアや他の子供達と一緒に。
そう思うとなんだかすごく切なくなってきた。
今からでも過去に遡って、幼い恋次を連れてこれたらいいのに。
そうしたら俺がうんと可愛がって、うんと優しくして、
毎日毎日幸せに馬鹿騒ぎして、こんな風に笑って過ごせるのに。
ちくしょう。
結局何にもできねーんだよな。
好きって気持ちだけじゃやっぱり、何にもならねーんだよな。

・・・・・ああそうだ。コイツに名前付けてやらないと。
いつまでもチビとか恋次とか呼ばれてたらかわいそうだもんな。
恋次の次だから恋三? うー、趣味ワリィ。
義魂関係の名前はつけたくないしなぁ。
遊子や夏梨に訊いてみるか。

チビがクスッと笑った。
何の夢を見てるんだろう。
目をつむったまま嬉しそうにクスクス笑って、両手を伸ばしてきた。
そんで俺の頬を触りながらまた眠り込んでしまった。

なんて暖かいんだろう。
寝るつもりじゃなかったけど、あまりの心地よさに布団から出られなくなって、
俺もいつしか眠りに落ちてしまっていた。




三つ子の魂は永遠に! 7 >>

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