とても疲れていたはずなのに朝を待たずに目が覚めたのは、
勢いよく開いた窓がいつもより派手な音を立てたからだ。
そこには夜空に溶け込む漆黒の死覇装に身を包み、
いつものように窓枠にしゃがみこんだ恋次の姿。

「恋次!! もう帰ってこれたのか?」
「・・・・なんかすげーイヤな予感がしてな。
 慌てて戻ってきてみたら案の定、何だこれ?」

恋次はチビを指差した。
熟睡してたはずのチビも起きたみたいで、ベットに起き上がり目を擦っている。

「なんで成長してない?
 浦原さんによると真夜中に成長するはずだろ?
 だったらもう7,8歳の大きさにはなってるはずだぜ?」

・・・・・そういえば。
時計を見るともう明け方近くなのにまだチビはチビのままで、三歳サイズ。
ヘンだな。

恋次が部屋に入り込み、チビをじーっと見た。
チビも目を擦りつつ、じーっと恋次を見る。
・・・親子の対面?

「・・・・・・おかーさん? おかーさんだよね!!
 おかえりなさい、おかーさんっ!!」

お母さんという言葉が明らかに自分に向けられていると知った恋次は動揺しまくった。

「ち、ちがっ! 俺ァお母さんじゃねーっ!」

いきなり怒鳴るなよ!! ただでさえ怖いんだから、テメーのその顔は!

「オ、オイ一護っ! なんで俺がお母さんなんだっ?」
「いやそれは何か話の成り行きで・・・」

恋次の怒鳴り声にも全然動じないチビは、
目をキラキラさせて恋次の袴を握り、息つく間もなくしゃべりだした。

「おかえり、おかーさん!
 オレ、タイヤクたべたんだ!!
 うまかったぞ!!
 おかーさんも好きなのか?
 アワアワのお風呂もはいったんだ!
 でもアワアワはうまくなかった!
 ベェェェってかんじ!
 パパのオヤジはパンツかぶるんだ!
 そんでいちばんつよいのはカリンなんだ!
 すげーつよいし、おもしろかった!!
 パパはインコーでツバメなのか?
 おかーさんは鳥が好きなのか?
 小さくてかわいいから好きなのか?
 それとも若いからうまいのか?」

よりによってそんなことを・・・・!!
でも俺のこと、パパって呼んだ。
う、うれしい。ちょっと涙でそう。
更にしゃべり続けようとするチビを恋次が手で制す。

「ちょ、ちょっと待て。とりあえず黙れ」

チビは期待に満ち満ちた笑顔を恋次に向けたまま、
口をぎゅっと閉じてじっと待ってる。
まだまだしゃべり足りない感じだな。
しかしよく覚えてるよ。言葉も達者だ。
さすが俺の子だ。うん、賢い!
そこへなんだか情けない顔の恋次が俺の方を振り向いた。

「・・・・・一護。一体どうなってんだコレは?」
「なんだよ。はきはきしていい子じゃねーかよ」
「そーじゃねーよっ!
 どういう教育をしたらこんなことになるんだ、あァ?」
「なんだよ、その言い方! 教育とかって関係ねーだろ!
 すっげーいい子に育ってんじゃねーかよ!」
「だからそーじゃなくて、一体何やってたんだ、オマエの責任だろ?!」
「なんだよその責任って! チビはすげーがんばってんだぞ?
 それに俺にばっかり責任押し付けるんじゃねー!」
「つーかテメーが任されたんだろうが?」
「何にもしないでいてよく言うよそんな台詞!
 子供の面倒は両親二人で見るもんだろ?」

恋次のこめかみに青筋が浮き出た。
でもココで引いたらダメだ。チビのためにも俺は戦わうぞ!!

「・・・・・なんだその勝手な設定は?
 誰がおかーさんだ、どこの誰がいつ夫婦になったんだ、あァ?!
 ノウミソ沸いてんじゃねーか、テメーっ!
 俺ァこんな子供つくった覚えも産んだ覚えもねーぞっ!」

「あ、何てこというんだ、子供の前で!
 子供がどんなに傷つくか分かってんのか?」

恋次のあまりの剣幕にびびったチビが俺の方に逃げてきた。
そっと抱っこしてやるとぎゅっとしがみついて、
顔だけ恋次のほうに向けた。目が不安そう。

そんな俺たちを見た恋次の口が魚みたいにパクパクとしたかと思うと、
突然うなだれて大きくため息をついた。
なんだよ!

「・・・・・いや、だから!
 子供じゃなくって義骸と義魂なんだって!!
 夢見るのは勝手だが、暴走しすぎだこのバカ」

「・・・・・わかってるけど、でもオマエもチビと一緒にいてみろよ。
 全然義骸とか義魂とか、そんなんじゃねーんだよ。
 コイツ、ちゃんと生きてるんだよ。わかんねーか?!」

「わかってねーのはオマエだよ。 つーか浦原さん、完全に人選ミスったな。
 オマエは一番向かねーよ、こういうのはよ」

「なんだよ、俺がダメみたいな言い方すんなよ!」

「ダメなんじゃねーよ」

全くよ、と呟きながら恋次は俺の頭に手を置いてもう一回ため息をついた。
くそ。
なんだよ、その見下した態度。
俺だって一生懸命やってるんだぞ?!
チビだってすげー楽しそうだったんだぞ?!

「・・・・コイツ、浦原さんとこに戻してこよう」
「なんで!!」
「テメーもコイツも別れる時にキツいからだよ」
「もう充分キツいよっ!!」

チビがぎゅっと抱きついてきた。
俺たちが何でケンカしてるかやっぱわかるんだ。
ちくしょう。
こんなはずじゃなかったのに。




三つ子の魂は永遠に! 8 >>

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