沈黙に緊張が増したのか、チビはぎゅっと俺に抱きついたままだった。
僅かに震える体から不安が伝わってきてやるせない。
とにかくチビの背中をなでてたんだけど、それを見てた恋次は、
どうしたもんかね、と呟いてまた大きくため息をついた。
「・・・・・オイ、テメーもしかしてクスリ忘れてねーか?」
恋次が机の上の薬ビンを指差した。
思いっきりドクロマークのついてるヤツ。
「・・・・・あ!!」
しまった。一回も飲ませてねえ。
だから成長しなかったのか。
「このボケェッ!! 遊んでばっかりでテメーはクスリ一個飲ませられないのか?」
「ワリィ」
「ワリィじゃねーよ、このバカ!
こんな小さいままの義骸、どうする気だ?! 俺、入んねーぞ?」
「いや、だから悪かった。なんか色々あってすっかり忘れてた」
「ってどうする気だよオイ。これ大事なプロジェクトなんだぜ?」
「今から全部飲ますわけにもいかないしなあ」
自分のことだと感づいたチビが不安そうに見上げてくる。
正直、このままゆっくり成長させてやりたい。
でも義骸なんだ、コイツの体は。
決められた時間に薬を飲まないでいるってことが、
体にどういう影響を与えるか見当もつかない。
「・・・・とりあえず浦原さんに相談してみるか」
「そうだな、それしかねーな」
「夜が明けたら連れて行こうぜ」
「オレ、やだ! ココがいい! ウラハラさんってとこ、ヤダ!」
腕の中で固まっていたチビが叫んだ。
「チビ・・・。でもこのままじゃダメなんだよ。薬、飲むの忘れちゃってたから。
後で行ってみよう。な?」
「やだったらやだっ!」
「大丈夫だから。俺がちゃんとついていくから」
「絶対やだっ!!」
チビは俺を突き放して飛びのいた。
下唇をきつく噛んで睨みつけてくる。
「・・・・・クスリ飲めばいいんだろ?
そしたらオレ、ココにいてもいいんだろ?!」
止める間もなくチビは机の上の薬ビンに飛びついた。
そして中に入ってる丸薬全部、口の中に流し入れた。
「・・・オイッ!! やめろ、ばか! 全部吐き出せっ」
俺も恋次も大慌てでチビの口からクスリを掻き出したが、
チビは全力で抵抗して、あっという間に大方のクスリを飲み込んでしまった。
喉に詰まったのかひとしきり咳き込んだ後、
オレここにいていいよな?と呟いて気を失った。
「チビっ!! おい、チビってば!!」
頬を叩いてみても反応がない。全身から力が抜け、ぐったりとしてる。
「なあ一護。これ、まずいんじゃねーか? 3日分ほとんど全部飲んじまったぞ?」
「・・・どうすれば・・・。やっぱ、今すぐ浦原さんとこ、連れて行かないと!」
「おい、ちょっと待て。こいつ、成長し始めてるぞ?」
「・・・・・ホントだ」
小さい体が小刻みに痙攣しつつ、少しづつ大きくなってきてる。
目に見える速度で。
「まさか三日分、一気に成長するのか?」
「そうかも・・・・」
「大丈夫なのか?」
「そんなの、知らねーよっ!」
「オマエ、浦原さんから何も聞いてねーのか?」
「いや、こんなことについては何も・・・って、パンツ脱がさなきゃ!」
Tシャツをめくってパンツを脱がそうとすると、慌てて恋次がTシャツを戻す。
もう5,6歳サイズまで大きくなってきてる。
下膨れだった頬が丸くなって、まん丸だったお腹も平たくなった。
手足も長くなってきたし、3歳児用のパンツは既にぴちぴち。
「何するんだテメー、俺の義骸に!!」
「って脱がさねーとヤバいんだよっ! あれ、三才用のパンツだから!
このまま体が大きくなると締め付けられて、成長するモンも成長しねーぞ?!」
「それはヤバイ脱がさなきゃってオイ、・・・・・なんでイチゴのパンツなんだよ?!」
「妹のお古だからしょーがねーだろ?!」
「だからってイチゴは止めろよっ。真性のヘンタイかテメーは?!」
「しょーがねーだろ、それしか無かったんだからよっ!」
嘘ですすいません、とココロの中でぼやく。
「とにかく早く脱がさないと間に合わねーぜ」
「・・・・クソ! このヘンタイ一護!」
「ウルセー!」
ちくしょう不条理すぎるぜと恋次は呟きつつ、チビのパンツを脱がせて布団を掛けた。
そうしている間にもチビはどんどん成長する。
顔の丸みがどんどんとれ鼻や額が成長して骨ばった男の顔になっていく。
頬が削げ、布団の下の手足も伸び、
体の丸みが取れて直線的になっていくのが手に取るように分かる。
あっという間に幼児から子供に、そして中学生に、
そして俺と同じぐらいの年になったところで唐突に成長が止まった。
きっとさっき掻き出した薬の分だけ成長し切れなかったんだ。
「・・・・なんか、すげーシュールだったな」
「・・・・おう。我ながら、結構気色悪かったぜ」
俺ってこんな風に成長してたのな、と、
恋次はもう大きくなってしまったチビの頬をつついた。
「おい、チビ、聞こえるか? 大丈夫か?」
呼んでも返事がない。体にも反応がない。
「・・・・・チビ?!」
成長した体の中からはチビの気配どころか魂魄の存在も全て消え去り、
空っぽになってしまっていた。
三つ子の魂は永遠に! 9 >>
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