「・・・ウソだろ?」

なんか不思議な感じだ。
あんなに小さくってかわいくってよく懐いてたチビが突然消えてしまった。
代わりに恋次によく似た、でも刺青も眉間の皺もない、
なんだかとてもまっさらな感じの恋次が出現した。

この胸にぽっかり穴が開いた感じは何だろう。
俺、最初はこれでいいと思って引き受けたのに。
あのチビは居なくなってしまった。
もうどこにもいない。
ちくしょう。

「オイ、泣くな一護」
「・・・・・泣いてねーよ」
「泣いてるじゃねーかよ」
「・・・・・泣いてねーよっ!!」
「ヘェヘェわかったよ。おら」

そういって恋次が俺の頭を抱き寄せた。

ちくしょう、なんでだよ?!
いなくなるならいなくなるで、ちゃんとお別れを言いたかった。
最後、あんな風に辛い思いさせたまま消えさせたくなかった。

「一護。泣くんなら涙ぐらい流せ。じゃねーと後で辛くなるぞ?」
「・・・・うるせー。ほっとけ」
「ったくしょーがねーな、テメーはよ」
「・・・・・ほっとけっつってんだろ」

恋次が俺の頭をガシガシかき回す。

「なあ。アイツ、なんか幸せそうだったな」
「・・・・・・」
「アイツが言ってたタイヤクって鯛焼きのコトか? 食わせてやったのか?」
「・・・・ん」
「アワアワのお風呂ってなんだ?」
「・・・・・泡のたった風呂だよ」
「テメーのオヤジ、パンツかぶるのか?」
「・・・・・チビが先にやったんだ。だからオヤジが真似して夏梨に締められた」
「相変わらずの家族だな。つか何だよ、ツバメとかインコーとか」

思い出話にすんなよ。
俺はテメーみたいにチビのこと、割り切れないんだよ。
テメーはチビのこと、何にも知らねえじゃねーか!
八つ当たりって分かってるけど、でも恋次に当たらずにはいられない。

「・・・・だってアイツ、すげークソガキでさ。いろいろとタイヘンだったんだ。
 もうテメーにそっくりでさ。根性悪いし、メシばっか食ってるし。
 それにすぐ逃げるんだぜ? 屋根登るし、ひねくれてるし、すぐ蹴るし。
 パンツだってバカみたいに派手じゃないとイヤだって言うし、
 風呂だって大暴れだし、それに、それに・・・」

ちくしょう。思い出すじゃねーか。でも止まんねえ。くそ。

「・・・そっか。お疲れだったな」

思いがけない優しい言葉に見上げると、
恋次がなんか困った顔して笑ってた。

「あのチビ、きっと幸せだったぜ?
 浦原さんもオマエのそういうとこ知ってて任したんだよきっと」
「・・・・そっかな」
「そうさ。少しは落ち着いたか?」
「・・・・・ん。もう大丈夫だ。すまねー」

恋次は俺を見て、しょーがねーさといって笑い、チビだった義骸に手を触れた。

「オイ、何する気だ?」
「試してみるんだよ。俺の義骸だ」

それは義骸じゃない、と言いそうになって慌てて口をつぐんだ。
そんなのウソだ。チビはもういない。
最初からいなかったんだ。
そう頭では分かっていても割り切れない。
恋次はきっとそんな俺の気持ちなんか知ってて、
敢えて俺の目の前で元チビの体に入ろうとしてるんだ。
俺に思い切らせるために。

「いいな?」

そう言って、恋次は義骸に自分を滑り込ませた。

一瞬の後、眩しそうに瞬きながら目を開けた。
軽く首を動かし、手が布団の下から出てくる。
いつもの恋次よりかなり細い。それにTシャツの袖の下、刺青がない。
ゆっくりと身を起して恋次がベッドの上に座った。
腰ぐらいまで伸びた赤い長い髪が背を伝う。
背は充分に高いみたいけど、全体的に骨ばっててなんか同級生っぽい。
きっと鍛えあげる前の恋次はこういう感じだったんだろう。

「・・・うん。大丈夫だ。ちょっときついけどちゃんと動くし」
「そっか」

チビの体に入った恋次は手を開いたり閉じたり、肩をまわしたりしている。
確かに外見はいつもと違うんだけど、
中に恋次が入っただけで表情や動作が恋次になる。
結局そういうものかもしれない。
案外普通の人間でも、外見よりも魂魄そのものを見ているのかもしれない。

そして改めて、チビは本当に消えてしまったんだ、と思った。



三つ子の魂は永遠に! 10 >>

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