「うーん、やっぱまだキツイかな。動きにくいし。
 浦原さんに頼んで、もうちょっと大きくしてもらうか」
「そういうもんなのか?」
「別に不可能じゃないんだけどな。
 体性感覚とか神経結合とか、あとは自意識の問題とか、
 やっぱり可能な限り似てるほうがしっくりくるんだよ。
 魂魄だけの俺たちにとっては殻みたいなもんだからなあ」

ただの殻、なんだ。
そんなに体って意味のないものなのかな。
やっぱり魂魄とかココロとか、精神的なものが一番大事なんだろうか。
さっきまでその殻を育てるために入っていた仮の魂のことを想う。

「・・・・?」

恋次がベッドの上に座ったまま、不意に頭を抑えた。眉間の皺が深くなる。

「どうした?」
「・・・・いや、なんでもねー。つか何だ、これ?」
「恋次?」

恋次は頭を抱えて唸りだした。痛むのか? 
大量に薬飲んで急成長した義骸だから、どっかおかしいんじゃねーか?

「オイ、今すぐ出ろよ」
「・・・?! 出れねえ・・・。どうしちまったんだ?」
「出れない? どこか痛いのか? 苦しいか? 浦原さん、呼んでくるか?」

俺の言葉には反応せず、恋次は頭を抱えベッドに倒れ込んだ。
布団の上からでも、恋次の体が小刻みに震えてるのが分かる。
こんなの、見たことねえ。なんだ、一体? やばいのか?
訳わかんない事態に焦りだしたとき、またしても窓が勢いよく開いた。

「まいどォ〜、何かお手伝いできること、ありますか〜〜?」
「浦原さんっ?!」
「おんやあ、やっぱりこんなコトになってましたねえ。
 いやねえ。なんかヘンな霊圧が流れてきたんで気になりましてねー」
「・・・・ヘン?」
「その話は後です。まずは阿散井サンをどうにかしないと」

いつもの必要以上な呑気さを浦原さんは振りまきつつ、
強張りきった恋次の体に近づいた。
見開かれた眼は焦点があってなくて、歯を食いしばってる。
そして浦原さんは、頭を抱え込んでる恋次の腕を軽々と外し、

「ハイ、もう大丈夫ですからねー。コレ飲んでくださいねー」

と歯の間にヘラみたいなものを突っ込んで、
すごい力で無理やり抉じ開けて、小瓶に入った液体を注ぎ込んだ。
喉がごくりとなる。
口の端から緑のどろりとした液体が流れ落ちる。
そして恋次の体がまた痙攣しだした。

「オイっ、大丈夫か? 恋次っ?!」
「大丈夫に決まってるじゃないっスかー。アタシのつくったクスリっスよ?」
「だから心配なんじゃねーか、このゲタ野郎!!」
「おやおや言ってくれますねえ。でもホラ!」

浦原さんの指差すほうを見ると、恋次が静かに横たわっていた。
ぼーっとした様子ながら、焦点もあってるし、震えもおさまってる。

「オイ、恋次!! 大丈夫か?!」
「目が覚めましたか? コレ、何かわかりますか?」

コレって言いながら俺を指差すなよ。モノか、俺は!

「・・・・・パパ」
「・・・・・え?」

言った本人が一番びっくりしたみたいで、いきなり正気に戻った。

「なんだよソレ! 何でテメーがパパなんだよっ!!」
「・・・・・は?」
「だからテメーは一護・・・つーかパパ? 
 うおおお、ありえねーー! なんじゃあこりゃああっ!!」

一人芝居を見てるのか俺は?
恋次が一人で赤くなったり青くなったり。
オマケに俺のことをパパと呼んでみたり一護と呼んでみたり。
まさかアタマやられたのか?!
と、その様子を観察していた浦原さんはボソリと呟いた。

「・・・いやー、なんだかかなり混じってますねー」
「なんだよ、その混じってるって!!」

あちゃあ、聞こえましたかあと帽子に手をやって、浦原さんは話し出した。

「いやね。義骸を義魂で成長させるってのは実は昔っからある手なんスけどね。
 なかなか難しいんですコレが。というのも、義骸といえども立派な生体。
 成長するうちに義魂とかなり強く影響しあってしまうんっすよ。
 だから義骸として使えなくなっちゃうんですよねー」
「使えない?」
「コレが結構致命的で、成長用に入れといた義魂がうまく抜けないというか、
 義魂が抜けても成長するときに入ってた以外の魂魄を拒否するというか、
 義骸と義魂、どちらも霊子で出来ているんで、
 一緒に成長することによって混ざり合っちゃうんでしょうねえ」

さっき恋次が言ってたことを思い出した。
殻って言ってたけど、ぜんぜんそんなもんじゃないんだ。
じゃあその義骸にチビの魂が残っているのか?

「で、考えたんッスよ、アタシは!
 ご本人の魂魄使えばいいじゃないかってね!!」

ほんっとアタシって天才っと扇子を開いて浦原さんは叫んだ。

「オイ、ちょっと待て。それじゃあ・・・」
「そう! あの義魂は阿散井さんの魂魄のカケラっス〜!!」
「って待てよ! 恋次そんなこと言ってなかったぞ?!」
「あったり前っスよー。そんなこと言ったら絶対許してもらえないじゃないですか〜」
「・・・・テメー、また性懲りもなく人道からはずれまくったことを!!」

えーっと浦原さんは扇子の影に隠れる。

「人道、関係ないっスよ〜。死神道っスよ〜」
「屁理屈言うんじゃねえっ!! 
 つかそういう話をしてんじゃねー!!
 さっさと恋次を戻せっ!!」
「ムリっスよ〜。だってもう混ざっちゃいましたモン!」
「・・・・はぁぁ?!」



三つ子の魂は永遠に! 11 >>

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