恋次が自分の頭を指差しながら言った。

「じゃあコレ。このありえない感じの記憶は、あのチビの・・・・・?」
「ご名答っス〜!!」

恋次が俺を見た。
でっかく見開かれた紅い眼が、チビの記憶と重なる。

「・・・チビの? じゃあオマエはチビなのか?」

恋次が何かを振り払うようにぶんぶんと頭を大きく振った。
紅い髪が揺れる。

「・・・・いや、悪ィけど、オマエの可愛がってたチビはもう居ねえ」
「だって今、浦原さんが・・・!」
「チビは消えた。残ってるのは記憶だけだ」
「どういうことだよっ! わかんねーよっ!
 その義骸ん中にチビもいるとか、そういうんじゃねーのかっ?」

一触即発の俺たちの間に、浦原さんが割り入ってきた。

「まぁまぁまぁ。お二人さん、どちらの言うことにも一理あるんッスよ。
 アタシが阿散井サンの魂を基にして、
 三歳当時の阿散井サンの魂魄を再生して、
 その魂魄情報を元に義骸をつくって組み合わせた。
 要するにクローンみたいなもんっス。
 だからチビさんは阿散井サンそのものなんッスよ」

呆気に取られている俺たちを尻目に、浦原さんはにこやかに笑う。

「計画通り3日かけてゆっくり成長させればよかったんですが、
 なぜか大量のクスリを一辺に飲んだ。そうっスね?」

恋次が俺をギロリと睨む。

「幸い、3日分全部ではなかった。だから義骸は成長し切ってない。
 ・・・・・17,8才ぐらいッスかねぇ?」

恋次の頚や腕、背中を確かめながら浦原さんが言った。

「不幸中の幸い、なんですかね。何とか義骸のほうは大丈夫みたいです。
 でも魂魄の方、チビさんは持たなかったみたいっスね。
 魂魄が薄くなりすぎて、存在を保つことが出来なくなって、
 たぶん記憶だけを残して義骸に溶け込んでしまった」
「溶け込んだァ?」
「ええ。 もともとどちらも同じ魂魄から派生したものだし、
 霊子なんでねえ。境界がはっきりしないってのもあるんですよ。
 だから今まで技術化できなかったってのもあるんですけどね」

そう言って、恋次の背中、ちょうど肩甲骨の間ぐらいに掌を当てた。

「とまあソコまではよくあることなんですけど、でもチビさんの魂魄。
 思ってたよりずいぶん強く成長してたみたいっス」
「ええ?」
「さっきの阿散井サンが苦しんでたのはそのせいっス。
 チビさんの残留魂魄というか残留思念というか、
 それが阿散井サンを拒否して、でも拒否し切れなかったから逆に取り込もうとしてた」

そんな。信じらんねー。

「よっぽど執着があったみたいですねぇ。
 黒崎サン。チビさんは楽しそうだったんですか?」

大きく頷くと、なるほど、と言って浦原さんは話を続けた。

「元の精神状態というか魂魄のステータスのままだったら、
 別に義骸と融合してても、阿散井サンに対して
 あんな強い拒否反応は起こらなかったと思います。
 でも、たとえ阿散井サン本人から派生したものだとしても、
 本体と全然違う経験で別人格になってしまったんッスね。
 よく生まれより育ちって言うでしょう?
 やっぱりこの技術の標準化は難しいですねぇ。不確定要因が多すぎる」

「じゃあ俺は一体今、どうなってんだ?」

恋次が目を訝しげに細める。
浦原さんが恋次の額と後頭部に手を当てた。

「さっき薬飲ませたのにまだ残ってるみたいですね」

あ、テメー! これ以上恋次にベタベタ触るなっ。

「薬って?」
「さっき薬飲ませたでしょう?
 ありていにいえば義骸の周波だけを感知してその自意識を取っ払うというか、
 そんな感じのクスリっす。平たく言えば、義魂の消去剤。
 だから阿散井サンには、記憶としてしか認識されないはずだったんですが、
 どうも思ったほどの効果が得られなかったみたいだ」
「どういうことだよ、浦原さん」
「だってさっき、パパって呼んでたっしょ?
 よっぽどチビさんの思念が強く残ってたんですねぇ。
 残ってるのは記憶だけじゃない。
 多分、魂魄自体が阿散井サンの一部になってますよ?」
「でもっ! 俺は俺だし、そんなチビの気配なんか全然感じねーぞっ?!」

と恋次は呟いて自分の体を訝しげに見た。

「まあでももともとは阿散井サンの一部ですし、
 そのうち吸収されてきれいに混ざると思うっス」
「思うっスってそんな適当な・・・!」
「大丈夫ですよー。明日もう一回見にきますから。
 じゃあコレ。残りの分のクスリ置いていきますんで、寝る前に飲んでくださいね」

「って俺は入りっぱかよ!」

浦原さんがニヤリとして恋次に何か耳打ちした。
恋次は真っ赤になってバクハツしそうな感じだったが、
慌てて口をつぐんで、わかった、とだけ言った。
そして動揺冷めやらない感じの恋次がベッドから出ようとしたら、
布団がはらりと落ちた。恋次の下半身に注目が集まる。

「うああああっ」
「何やってんだ恋次っっ!!」

恋次が慌てて布団をかき寄せた。

「・・・・・って一体アナタたち、何やってたんですか?
 あれだけ不祥事はダメですって言っておいたじゃないですかー!」

そうだった。さっきパンツ脱がせたから恋次、Tシャツ一枚。

「べべべ別に何にもしてねーよっ!
 三歳のパンツだったから脱がさねーといけなくてだからっ」
「からかっただけッス。いやあ脱がすのが間に合ってよかった。
 注意するの忘れてたんで助かりましたぁ」

動揺するなんて青い青いと嬉しそうに呟く。
・・・チクショウ。

「まあでもパンツだからよかったですよー。
 これがフンドシや首のつまった服だったら凄いことになってたでしょうねぇ」

ボンレスになった恋次を思い浮かべる。
なんつー大事なことを忘れてやがるんだ、このゲタ野郎はっ!

「いやあでもよく育ちましたね。ほんと、阿散井サンそのものだ。
 さすが黒崎サン。よく阿散井さんをご存知だから扱いが巧かったんでしょうねぇ。
 他の4体はなんかイロイロと育ちそこなってる感じなんですよー。
 また義魂も試したんですけどやっぱりコレもねえ。
 はっきりいってこの一体だけです、成功したの!」

さすが黒崎サンッ!とまた叫んで扇子をバタバタさせるが、
何なんだよ、その成功率の低さは?

「あ、そんな目で見ないでください!!
 アタシのせいじゃあないですよ?
 アタシの技術はそりゃもう完璧ッスから!
 ただ育ての親達がねえ・・・」

・・・・誰を誰に頼んだんだよ?

「朽木サンに頼んだ分は、なんか不思議なイキモノになっちゃいましたんで、
 ご本人、あ、六番隊隊長サンですけどね、絶対使わぬと冷たいことこの上ないですし、
 チャッピー入れた朽木サンは外見までチャッピーになっちゃいましたし、
 他の2体もですね・・・・」
「あ、明るく言うな!!」
「まあそんなわけで、本当にありがとうございましたー。
 生みの親より育ての親ですね!
 兎にも角にも実験結果がでましたんでコレ、お約束の報酬ッス!」

そう言ってどこに隠していたのか、浦原さんはソレを取り出した。



三つ子の魂は永遠に! 最終回 >>

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