昼過ぎから降りだしたぼたん雪は、いつしか粉雪となった。
雪に音と色を攫われて、あんなに騒がしかった街も静まり返っていく。
待ち人来たらず。
こんな日にはその空白が、特に堪える。



Snow Red




窓からの風景はいつになく単調な白で、
それだけに、その中を駆けて来るであろう恋次の姿が鮮やかに目に浮かぶ。
先ほど、虚と思しき霊圧と、恋次の霊圧がぶつかっていた。
すぐに静まり返ったから、今頃恋次はこっちに向かっているんだろう。
赤と黒の残像が、雪の白を一瞬乱して走り抜けてくるんだろう。

「しっかし遅っせぇなあ・・・・」
冷え込んできたのか、ぶるると体を震わせた一護は外を見遣った。

雪明りと街灯のせいで、夜中だというのに何時になく明るい。
空を隅々まで埋め尽くした雲も、地上の照り返しのせいか、白く輝いて雪そのもののようで、
一護は、四方を白く塗り込められたような、そんな奇妙な閉塞感と同時に、奇妙な胸騒ぎを覚えた。

「いくらなんでも遅すぎ・・・だよな」

念のためと四方を探ってみても、恋次の霊圧が感じられない。
「まさか、帰っちまったのかな・・・」
けれど約束したのだ。どんなに遅くなっても来る、と。
待っているのは性に合わないと、一護は外に出ることにした。
一歩、玄関から踏み出すと、さく、と音がする。
足元の雪が街灯に照らされて、キラキラと光っている。

「さみぃ」
誰に聞かせるともなく一護は呟き、真っ白に降り積もった雪の中を、
虚と恋次の霊圧がぶつかった方に向かって歩き出した。

「しっかし・・・・。どこに行きやがったんだ。呼び出しとか食らったのかな。
 にしても連絡一本ぐらい寄越してもいいはずだろ」

ぶつぶつ呟きながら、足首まで埋まる雪の中を一護は歩き廻った。
通いなれた道も、こうやって雪で真っ白になると、違う顔を見せる。
馴染んだ塀や庭木が雪の下に隠れてしまって、まるで化かされてるみたいだ。
迷路の中に迷い込んだみたいに。

じゃあ恋次は、この迷路のどこにいるんだろう。
恋次の霊圧は残っている。虚と戦った際に一瞬、爆発的に増加したのだ。
その名残が辺り一面に散らばっていて、だからこそ恋次本人がどこにどう移動したのか、気配がつかめない。

「ああもう、ちくしょう!!」

ぐるぐると歩き回って、いい加減、眠気と疲労がピークに達したとき、
一護は街灯の明りが届かない道の片隅に倒れている人影を見つけた。




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