Snow Red 7 / 一護
「茶ぁ、持って来たぞーって、オイッ!!」
部屋に戻るといきなり恋次が殴りかかってきた。
ガシャンと派手な音を立てて、湯のみが割れてお茶が飛び散る。
「うおっ」
クソっ、何考えてんだ、この野郎!
油断してた。うまくかわしたとはいえ、こいつの体重の乗ったパンチ食らうと、ただ事ではすまない。
「俺を、ここから出せっ!!」
「・・・・クソ、何のことだよっ、いきなり殴りかかんじゃねえっ!!」
「イテっ・・・! 離せ、離せコンチクショウッ!!」
殴りかかってきた手を逆手に取り、そのまま床にうつ伏せに叩き伏せて後ろ手に締め上げると、
恋次はジタバタもがくだけで身動きできやしない。
なんだよ、この鈍すぎる身のこなし。あの恋次とは全然違う。
死神状態ならともかく、生身だと俺は敵わなかった。
こんなに弱い恋次は知らない。
「・・・何、考えてんだ、テメー。逃げるって何で逃げなきゃなんねえんだよ?」
「うっせえ、離せ、このクソったれがっ!!」
いくら動きが鈍いとはいえ、このガタイと筋肉。
押さえつけとくにも限界ってもんがある。
「あー、もう。よく聞けよ? この部屋は結界が張ってあるんだ。俺しか出入りできねえ」
「んでだよっ、やっぱりテメー、人さらいだな?!」
「・・・なんでそうなるんだよ、この単細胞! ちゃんと一角や浦原さんに話聞いただろ?!
記憶があろうが無かろうが、テメーやっぱりバカだな?!」
「バカはお前だ、このミカン頭、バカ! カス! 人さらい!! 下っ端のくせに、離しやがれっ!!」
なんだこのレベルの低い悪口は?!
いくらバカの恋次ったって、こんなガキ臭い悪口はなかったぜ!
つか下っ端ってなんだよ! そこ、なんかムカつく。
「あのなー。ちょっと考えろよ。テメーを攫ってどうすんだよ? 金が取れるわけでもねえだろ!
みんな、心配してたの、わかんなかったかのかよっ?」
「・・・・・・」
「テメーの記憶が子供の頃に戻っちまったってのは知ってる。
けどさ。テメーのこの体。わかんだろ?テメーはとっくの昔に大人んなって、死神になって、そういうことなんだよ」
床に押し付けていた恋次の抵抗が弱くなる。
理解したのかな。
「この結界だって、テメーを護るためだ。閉じ込めるためじゃねえ」
「・・・・んなの、信じられられるわけがねえ」
「まあ、気持ちはわかるけどさ」
そういって手を緩めてやると、本当にしぶしぶといった感じで恋次は身を起そうとした。
手を引いたらビクっとしたけど、構わずそのまま引き起こした。
床に胡坐かいた、いつものデカい図体と態度。
でもそっぽ向いて座ってる不貞腐れた様といったら、本当にその辺のガキのようで、
吹きだしそうになるのを必死に抑えるから、妙な顔になっちまう。
腕組んでる姿が不自然で覗き込むと、肌蹴たシャツの前、中に紙袋が覗いてる。
もしかして、鯛焼き持って逃げようとしたのか。
「・・・あーあ。もう、グチャグチャじゃねえか」
「取るんじゃねえっ、これは俺んだっ!! あっ、クソッ、つぶれちまったじゃねえか!」
俺のせいかよと言おうとして見上げた恋次の顔は切なそうで、
尖った口先からかすかに、せっかくルキアに、と呟いた声が聞こえた気がした。
もしかしてこれ、ルキアにもって行くつもりだったんだろうか。
だから逃げ出そうとしたのか?
つかテメーが腹減ってるってのに、まず、ルキアかよ。
ルキアのことは覚えてるのかよ。
当たり前かもしれねえけど何かそこ、腹がたつ。
「・・・なあ、俺のこと、本当に覚えてねえのかよ?」
「知らねえ、テメーみたいな小悪党!」
睨みつけてくるから、そうかよ、と平静を装って見返すと、
「・・・・知らねえもんは知らねえ」
と、ぷいと横を向くのが、やけに子供っぽくて。
そのくせ、少し尖った唇やふてぶてしい態度のせいか、いつもの恋次と面影が重なる。
こんなところに、子供の恋次は残ってたのか。
そうだよな。どっちにしてもこいつは恋次、なんだよな。
俺は、ちゃんと、覚えてる。
だから、
「・・・思い出せよ、俺のことだけでも」
ほかの事は忘れてもいい。
でも俺のことだけでも思い出して、俺しか出入りできないこの部屋で二人でずっと一緒に。
そんな本音がぽろりと零れ出たのと同時に、抱きしめてしまった。
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