ソリテア 2


授業を終えて教室を出た越智は、廊下の一護に一声かけて職員室へ戻っていった。
その姿に忌々しげな一瞥をくれたあと、 頭をガシガシ掻きながら一護は教室に戻る。
すると待ち構えていた啓吾は大声を張り上げて飛びついていった。

「いっちごー! こんの色ボケさん☆ きゃああ、嬉し恥ずかし恋の季節ぅぅ!」
ガシッ。
だが、無常にも啓吾の抱擁は、一護の足の裏で受け止められた。
ずりずりと床に崩れ落ちたところを更に足蹴にされた啓吾は、
「イ、痛ィ・・・で、す。やめてくらさい・・・」
「・・・たくテメエはよ・・・」
ため息つきつつ一護が足を外すと、
速攻、復活した啓吾は、頬に両手を当ててくねくねと腰を振った。
「やっぱり恋? 恋が一護を優しくさせるんですかーっ?」
一護のこめかみに青筋が立った。

「煩ェッ!! さっきから何、訳わかんねえこと言ってんだテメエは!!」
「いたい! てか踏まないでー!!」
「ア? 何、思いっきり絡んできてんだ? 殺すぞコラ?!」
「すんません!ていうか一護、なんでそんなに荒れてんの?!」
「そりゃテメエだろ。小学生のガキかテメエは、あァ?!」
「ああん、痛い〜!  ガキですんません、つか、一護さんはオトナですから!」」
「んだ、何がいいてえんだ?」
「オトナの階段ってヤツですねえ!」

一護は無言で、ぐりぐりと啓吾を踏んだ。

「あ・・! 水色さーん、助けてェッ!!!」
一護の足の下から水色を見つけた啓吾は、救いの手を求めて叫んだ。
だが水色は反応せず、一護に向かってにっこりと笑う。
「どしたの、一護。イライラしてる?」
「水色」
「何かあった?」
「・・・別に何でもねえよ。啓吾のバカがむやみに絡んできてるだけだ」
そうなの?と首を傾げた水色は、一護の足の下の啓吾を一瞥した。
「でもそれは仕様がないよ。だって一護、今日、注目の人だもの」
「あ?」
いつもより更に眉間の皺を深くして睨みつけてくる一護の視線を、 水色はにこにこと笑いながら受け止める。

「最近、一護、悩んでるでしょ?」
「あァ? 突然、何言ってんだ、テメーは」
「隠しても無駄だよー。越智先生にまでバレてるもの」
「越智・・・さん? んでそんな名前が出てくるんだ?」
だが一護の問いにも、水色はにこにこ笑うだけ。
「・・・って、もしかしてさっき、俺が廊下に追ん出される間・・・」
「うん。越智先生、一護が道ならぬ恋の悩みで苦しんでるって心配してたよ?」
「・・・・んだそりゃ!! あんのヤロー!」

啓吾は、 いやいやいや、越智センセーそんなこと言ってませんから、
話を大きくしてるのは水色ですからとツッコみたかったが、いかんせん一護の足の下。
身動きどころか、声もろくに出やしない。

「あ、あの・・・一護さん、どいてもらえますか。つか越智センセーが言ってたのは色ボ・・・」
「浅野さーん。今、大事な話の途中だから黙っててね」
「グフッ・・・・・!」
一護はさすがに、啓吾の上から足をどけかけたのだが、 起き上がろうとした啓吾の上に、水色はぽんっと身軽に飛び乗った。
そして同じ高さになった一護の目に向かってにっこりと微笑む。
「・・・・オイ、いいのか水色? 啓吾、白目剥いてるぞ・・・・」
「あのね、一護」
「いや、だから啓吾が・・・」
「何の悩みだか知らないけど、僕たちでできることがあったら言ってね?」

一護の目が真ん丸く見開かれた。
久々に目にした一護のその表情に、いつものとは違う真っ直ぐな笑みが水色の顔に広がった。

「ね? 約束だよ?」
「・・・悩みとか、んなもん別にねえよ」
「ならいいけどね。ほら、立って啓吾!」

水色が手を伸ばすと、ようやく自由になった啓吾は飛び上がった。
そして続けざまに何か、一護に畳みかけようとしたが、
「ほら、もう行かないと!」
と水色に制された。
「んだよ水色! 俺だって一護になあ!」
「いいんだよー。君じゃ役に立たないもの」
「んだと! 俺だってなあ!!」
「ほら、いいから。急がなきゃ。一護も早くおいでよ!」
ぎゃあぎゃあと大騒ぎしながら、二人は教室を出て行った。



ぽつんと残された一護は、ふぅっとため息をつく。
気がつけば教室から、潮が引くように人が去っていた。
ほかの教室からも音が聞こえない。

そういえば今日は全校朝礼か。
すっかり遅れてしまった。入っていけばまた、注目を浴びるのだろう。
別に構いはしないが、さっきと同じ、腫れ物に触るような視線に迎えられると思うと気が重くなる。


一護は窓の外を見た。
今日は小春日和。
長く続いた曇天が嘘だったように晴れ上がっている。
ぽかぽかと暖かい陽光が、窓ガラスをすり抜けて、教室に深く差し込んできている。

「やーめた」

一護は机上に散らばってた教科書の類をまとめて鞄に放り込んで、屋上へ向かった。
サボるには一番、いい場所だった。



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