ソリテア 3


「うぉっ・・・・」
屋上の端のほう、指定席のコンクリートの段の上に腰を下ろした一護は、思わず声を上げた。
「・・・冷てえ・・・、つか凍ってんじゃねえか」
よくみると、コンクリートの上はキラキラと霜が光っている。
息も白い。
まだ、朝は早いのだ。

もうすこしで第二学年も終わりというこの時期、定期的に朝の補習が実施されるようになっていた。
進路もいいかげん決定しろと煩いし、受験のためにもう部活を止めたヤツラもいる。
イヤでももうすぐ最終学年だと自覚を促され、少々辟易とした気分になっていた。

「医者、ねえ・・・・」

一時期、死神としての闘いに明け暮れていたときの成績や出席率も酷いものだったが、死神代行として駆り出されることも少なくなり、生活が落ち着いてからは、友人らの助けもあり、一護の成績は元の水準を取り戻してきていた。
だから学校側の期待も大きい。
「けどなあ。医者ってガラじゃあねえだろ」
オヤジはともかく。
知りすぎるほど知ってしまった一護の胸に、苦い思いが去来する。



長く続いた戦いは、禍根を残しながらも終了した。
一護も死神代行の任を解かれた。
死神化することも禁じられ、 ただの人間として生きろと命じられた。

だがどうやって?
全て、覚えているのだ。
あの時、友として、あるいは敵として戦った奴らのことも、肉や骨を砕かれる痛みも、負けて心を引き裂かれる辛さも全てこの身に刻み込まれている。
そして闘いのあの興奮も、骨の髄まで沁み込んでいる。
アイツの笑い声も、消えることはない。

一護は空を見上げた。
目を瞑り、意識を集中すると、霊的なものの存在があちこちに感じられる。
それはまるで篝火。
闇の向こうで幾層にも、大きく小さく、強く弱く、ゆらりゆらりと揺らめいている。
色も大きさも違えど、どれも命の光。
人は人、死神は死神、虚は虚。
それぞれが、それぞれの色で燃え続けている。
そうやって世界は廻転している。
だからつまるところ、死神代行であろうがなかろうが、一護は一護自身でしかないということなのだ。

一護は無理やり自分を納得させ、霜の降りたコンクリートの上に大の字になる。
背から染み渡る冷たさがやけに気持ちよく感じられた。


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