ソリテア 4
「これは・・・恋次か!」
霊圧を感じて、一護は慌てて身を起こした。
「ってあれ? いね・・え・・・」
見回し、気配を探っても何も見つからない。
だが確かに今、恋次の霊圧を感じたのだ。
それもかなり近く。
たぶん視認できるぐらい近くに。
恋次が尸魂界から出てくるなんて珍しい、と一護は恋次の霊圧を感じたほうを見遣った。
だがもうそこには誰にもいない。なんの気配も霊圧も残っていない。
屋上のコンクリートを覆う霜が、太陽の光をうけてキラキラと光っているだけ。
一護はその眩しさに目を細めた。
勘違いか?
けど前回も前々回も、共闘した仲間だ。
あの独特の霊圧を間違えるはずも無い。
荒っぽいくせにどこか醒めていて、けれど魂の奥底はどうしようもなく熱いあの男の霊圧を。
一護は恋次のことを思い、口元を緩めた。
あのバカ、元気にしてんのか?
一護は再び目を瞑り、霊圧を探ろうとした。
「イテ・・・ッ」
だが、不意に襲った鋭い頭痛と眩暈に頭を抑えた。
「・・・またかよ」
たいして長い時間、続くわけではないがここ最近、頻繁になってきていた。
まず、
痛みというよりは違和感で始まる。
例えるなら脳が頭蓋骨から無理やり剥ぎ取られるようなそんな違和感は、
身体が内側から裏返されるような苦痛に移行する。
長い間続くわけではないのは経験上、わかっている。
だが、刀傷などの闘いで受ける傷とは全く異なるその苦痛は、一護を酷く痛めつけていた。
なんとか凌ごうと両のこめかみに拳をあててグリグリと押さえつける。
妙な病気じゃなきゃいいけどなあと思いつつ、
これで死んだら尸魂界送りになって死神としてみんなと暮らすのかなあ、
それも楽しいかもなあなどとぼんやり考える自分のバカさ加減に苦笑が零れる。
だが激しさを増す痛みに、その余裕も消えた。
「う・・・、くそっ・・・」
一護は歯を食いしばった。
あのときの痛みや苦しみに比べたら、こんなもん何でもねえ。
闘いの記憶が走馬灯のように一護の脳裏を奔る。
どこか暖かくさえ感じる記憶。
激闘だったのに。
皆、苦しんだのに、不思議と懐かしささえ感じる自分がおかしかった。
だが余裕があったのもそこまで。
「・・・・っ」
ギリギリと体中を締め付ける痛みに、一護は頭を抱えてうずくまった。
もう何も考えることができなかった。
「はッ、はァッ・・・、く・・・そ・・、はぁっ」
ようやく苦痛が治まったのは、始業のベルが鳴り終わったあとだった。
騒がしかった校内も、また静けさに満たさ始めている。
「・・・今度のは長かったな」
だんだん酷くなってきてる気はする。
ちゃんと検査してもらわないといけないのかもしれない。
一護は四つん這いのまま顔を上げ、ぼんやりと霜に覆われたコンクリートを眺めた。
「へっくしょっ・・・、ってやっぱ、寒ィなあ」
体中にいやな汗が噴出したせいで、制服がべったりと肌に張り付いていた。
とにかく、
こんなことしてちゃダメだ。
ちゃんと人間として生きる。そう決めたんだろ、俺も。
だったらマジで高校生、やんねーとマズいだろ。
例え死神代行でなくても、その力は俺にはある。
これは
俺のもんだ。
俺は、俺の大事なものを護って生きていくんだ。
「さて・・・と」
一護は勢いをつけて立ち上がった。
振り返ると、一護が寝転がってたところだけ霜が溶けてる。
なんだか影がコンクリートにしがみ付いているようにも見えて、今の自分と重なった。
でも昼前には残りの霜も全部、消えてしまうだろう。
俺だって、ちゃんとやっていく。
いけるはずだ。
「つか、もしかして・・・、あ! やっぱ濡れてるじゃねえか! ちくしょ・・・」
後ろ手で確かめてみると、
制服の背面が溶けた霜で思いっきり濡れていた。
後ろから見たら、さぞかし酷い姿だろう。
一瞬、乾くまでサボろうかとも思ったが、
「オラ! ちゃんとしろよ!」
一護は自分に気合を入れなおし、空を見上げた。
澄み上がった青空はどこまでも高い。
「へっ・・・・くしょいっ」
思いっきりくしゃみをしたあと、
屋内へと続く重い鉄扉を押し開けて、教室へと急いだ。
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