加減する
「…んッ」
一護の指の動きに負けて思わず声を漏らしてしまった失態に、反射的に目を開けると、いぶかしげなオレンジの瞳が覗き込んできてた。
「どうした、恋次。キツいのか?」
いつもと違う刺激に翻弄されたせいで、当の昔に身体の制御なんか効かなくなってしまってるから、それがバレる前にさっさと終わらせたいってのが本音。
だからもちろん弱音なんか吐かない。
ごちゃごちゃ喋りたくもない。
「…どうもしねえ。さっさとしろ」
「恋次…?」
それは一護も分かってるはずだけど、疑問と迷いで頭が一杯ってツラしてる。
「っせえ、早くしろって」
「…う…っ」
繋がったままの腰を浮かすようにして促すと、一瞬、一護の身体が強張る。
ほーら見ろ、テメエの方がキツいんじゃねーのかと見上げると、何しやがると睨みつけてくる視線がひどく焦ってて、そのくせ続けていいのか迷ってるから笑いを誘う。
まったく、いつになったら通じるようになるんだろ。
へんなところでばっかりガマンが効くようになりやがって。
「…だから、早く来いって言ってんだろ?」
首に腕を回して引き寄せ、なるべく甘く響くように、耳に吹き込んでみる。
はやく熱に流され、蕩けてしまうように。
そんな自分を許すようになるように。
「け、けど恋次!」
なのに一護はやっぱり無駄に意地っ張りで、俺の意図なんか汲み取ろうとしない。
自分の感じたままでしか動こうとしない。
そして、あろうことか、
「やっぱ今日のオマエ、ヘンだ」
と両手を突っ張って身体を起こし、腰を引いた。
「…んん…ッ」
ずるりと体内の深いところから撫で上げられる感触に、甘くかすれた息が漏れた。
さっき、早く来いと誘った声とは全然違う、本気で切羽詰ったのが。
しかも軽く痙攣した身体がそのまま、一護を締め付けてる。
─── 気付かれただろうか。
そろりと眼を開けると、一護は小首を傾げ、俺を見下ろしてきてた。
その眼がひどく優しくて、見事にはめられたことを悟ったけど、もう遅かった。
だってほら、逃すまいと焦った手足が一護に勝手に絡み付いてしまっている。
すっかり息も上がり、一護が少し身動きするだけで足先も跳ねてしまう。
「ほら、やっぱキツいんだろ?」
「…っせえよ」
声までなんだか上ずってて、我ながら酷く情けないが、俺の反応を見逃すまいと伺ってくる一護の視線もどうしようもなく熱っぽいから、余裕がないのはお互い様だってことぐらい分かる。
それなら、このまま一気にケリを付ければいいのに、一護はやっぱり一護だから、
「ばっかだなあ」
なんてうそぶきながら、俺の髪を丁寧に梳いて、落ち着くのを待ってる。
けど多分、一生懸命、我慢してるんだろ。
動きそうになるのを堪えて、身体中に力が入ってる。
顎も上がってきてる。
ついに伏せられた瞼の際で、睫毛が震えだす。
だから、バカはテメエだろ、ガキの癖に無理しやがってと、いつもの天邪鬼が頭をもたげた。
俺は、髪を辛抱強く梳き続ける指を取った。
そして、やっと開いた一護の眼を見つめながら、ゆっくりと口に含む。
驚いたような視線が小気味いい。
ほら。
案の定、指先が酷く荒れている。
昼間、妙な玩具で散々遊んだせいだろう、指の腹に深い切り傷がいくつも出来ている。
この傷が、俺の柔らかいところを散々引っ掻き回したんだ。
今も、こうやって。
だから自制できなかった。
全部、テメエのせいだ。
クソッタレ。
「恋次…?」
その頑固な傷を舐めるのに夢中になってたところに、酷く静かな声で名を呼ばれた。
目を上げると、見下ろしてくる一護の眉間の皺がうんと深くなってた。
「…ん?」
「オマエ、やっぱヘンだ」
断じる一護の声はそれでも少し震えていたから、今度は強く、その指を噛んで否定する。
だってテメーのせいだろ?
俺じゃねーだろ?
「痛っ」
慌てて指を引いたところをみると、かなり痛かったのだろう。
一護は、まだ繋がっていたままだったことを忘れて、身体を完全に引きそうになった。
「…くッ」
「う…っ」
互いに予想外の刺激に翻弄されて、密着したまま身体が震える。
「う…。クソ、テメエ、何しやがる」
「っせえよ! ムリしてんのはテメーのほうだろ、さっさと抜きやがれ」
バカみたいに敵意剥き出しの視線がぶつかる。
「…恋次。オマエ、悪いとか思ってねえだろ」
「思ってねえよ?」
「テメエ…」
ギリ、と歯軋りの音を耳にしたのと同時に、乗っかったままの一護の腹に一発入れ、そのまま体勢を入れ替える。
繋がったところの皮膚が攣れたけど、構うものか。
「れ、恋次?」
「っせえよ」
慌てた一護を見下ろしながら腰をゆっくりと下ろし、深く咥え込む。
抉られるような痛みと紙一重の快楽に、大きく息をつく。
そして一護の両手首を掴み、敷布に押し付け、当惑した瞳を横目に柔らかい場所を選んで歯を立てる。
舌に残る汗の味が、苦く口の中に広がる。
撥ねる手足を押さえつけ、荒くなる呼吸を聞き流しながら、その肉に歯先を埋める。
「…んッ」
ほら、堪んねーんだろ?
止められねーんだろ?
だったらさっさとしろ。
こんな所で立ち止まってんじゃねえ。
仕上げとばかりにそっと唇を吸い上げると、くそったれと毒づきながら、一護は思いっきり俺を引き剥がした。
「…んだよ?」
「んでもねえよ!」
─── 何でもねえってツラじゃねえだろ?
俺は内心、ほくそ笑みつつ、更に口付けを仕掛ける。
けれど一護は、俺の頬を両手で挟んでそれを防ぎ、
「ほんと、どうしたんだ? らしくねえぞ?」
と言った。
だから俺は苦笑せざるを得ない。
「何でもねえよ」
「…けど…」
「一護」
今みたいに、どうしようもない快楽に流されて、それでも不安が先立って動けずにいる一護は、この上なく可愛いと思う。
だから、それ以上に自分が焦ってる訳など教えてやらない。
指先のほんの小さな傷が、こんなふうに俺を煽り立てたなどと。
本当は逃げたいぐらい、感じているなどと。
俺は、覗き込んでくる一護をじっと見た。
そしてその顔の両脇に手を着いた。
「早くオマエを寄越せっつってんだよ。…俺、ヘンか?」
「…恋次!」
そしてやっと一護は、自分を解放した。
それは決して優しい手ではなかったけど、とても深いところで俺を満足させてくれた。
→視線を逸らす
お誕生日おめでとう!ということで清原さんへ! 愛を込めてvv
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