「動き続ける100の御題」より (配布元 / せっと)
見つかる
なあ、と肩に置かれた手に振り向くと、ほらあれ、と一護が地上を見るように促した。
その訝しげな視線の先には、中空に漂う俺たちをまぶしそうに見上げる一群。
「・・・見つかっちまったってのか?」
そう一護が不安げに呟いた。
確かにこれだけの人間が、霊的なものを見えるようになるってのはやばい。
けれど地面に張り付いた人々の顔を明るく照らしているのは月光。
視線もすり抜け、 俺たちの影もそこには無い。
「・・・ばーか。俺たちじゃねえ、月、見てんだろ?」
そう言って背後の空を仰ぎ見ると、大きくくっきりと半月。
光を切り抜いてペタリとくっつけたようなその形。
「あ、そーか! そりゃあそーだよなあ!
あんなにたくさん、俺たちが見えるようになるわけ、ねえか」
はは、そうだそうだと照れ隠しにガシガシと掻き毟る頭には、月色の光でできた白金の輪が揺らめく。
月の光を淡く照り返し、闇を弾いて押し戻すその力。
なーに見てんだよ、ととがった声に我に返れば、
横から照らしてくる明るい月に、光と影、二つにくっきりと分かれた一護の顔。
見蕩れてんじゃねーぞと俺をからかってきたくせに、その言葉に自分で顔を赤くしている。
くるくると変る表情、
ばたばたと大げさに振り回される手の動き。
けれど見えるのは、月の光に強く照らされた片側だけ。
残る半身は暗く闇に沈んでいる。
空にぽかりと浮かぶあの半月のように。
「・・・・・恋次?」
けれど一護を照らしつけるのは生命の色のない白い光。
陽の光を石がはじいただけの、熱もない冷たい光。
闇に溶けて見えない半身こそが、だから実体。
暗く姿を隠しても、熱く息づいている。
「恋次!! 何、ぼーっとしてんだよ、ほんとにおかしいぞ?」
視覚も思考も奪われて、恋情にさえ似た強さで魅入られてしまったのはその命。
実体があってこその強さと熱情、そしてその儚さ。
「・・・んでもねえ。早く帰れ」
ここはオマエの場所じゃない。
オマエはあの地上で、闇に沈んで、肉体の殻の中から月を見上げるべきなんだ。
「んだよ、突然!」
「早く体に戻れ」
「訳わかんねえよ、何だそれ!」
叫ぶ一護をを置いて一人、さらに上空へと駆け上がると、深い深い水の底に沈んだよう。
心地よい闇がゆったりと打ち寄せる。
見上げると、水面に似た螺鈿のうす雲の向こうには、月が輝く。
それは死の象徴。
高く虚空より見下ろすと、夜闇の海に光の波がたゆたっている。
あれは人の命が作り出した光。
そして今、俺がいるのは生と死の狭間。
生きるもののいない世界に曖昧に浮かんでいる。
「待てっつってんだろっ」
怒鳴り声に足元を見ると、一護がまっすぐにこちらに向かってくる。
月を背に、光に紛れ、気配も姿も消していたというのに。
反射する月光以上に煌めくまっすぐな眼が俺を射抜くから、
やっぱり見つかっちまったなあと、その光に俺は、目を細めた。
重ねる>>