「動き続ける100の御題」より (配布元 / せっと)
撫でる
「あのさ」
と俺は、なるべくさり気ない風を装って話し掛けてみた。
恋次は肩をびくりとさせた。
俺は何も気付かないフリをして、あさっての方向に視線を逸らしたままの恋次に、
「俺、恋次のこと、すげえ好きだから」
とちゃんと伝えた。
でも恋次の肩は強張ったまま、動かなかった。
すんげー気合と気持入れて告白したのにと、俺は少しがっかりした。
真っ当に取り合ってもらってねえのかな。
それとももしかして慣れちまったのかな。
まさか嫌われてるってことはねえよな。
斜め後ろから見る恋次の横顔が、急になんだかすごく遠く見えた。
でもこんなことで諦められるわけもない。
どっちにしろちゃんと言わなきゃなんねー類のことだし、これはこれでよかったんだと無理やり自分を納得させて、気合を入れなおした。
だって俺は知ってる。
恋次ってのは面倒くさいヤツだ。
大雑把で単純で短気で大食らいで、そのくせ変なところでビビったり遠慮したり。
齢を食ってるクセに、時々置いてきぼり食ったようなガキみたいなツラしやがる。
俺にしてみりゃ、そんな細かいことはどうでも良くて、恋次が恋次だから一緒に居るわけで、
だから、こんな風に恋次が壊れてしまったときには、俺がしっかりするしかねえだろと思う。
「俺、恋次が好きだ」
繰り返し、繰り返し、俺の想いを伝えてみる。
けど相変わらず全く反応は無くて、俺の声が聞こえてるのかどうかさえ分からないぐらいだった。
けどやっと、触れた指に瞼を閉じたから、そのまま思いっきり抱いて、声が掠れて気を失うぐらいまで抱き倒してやった。
やっと眠った恋次は、とても静かだった。
俺は少しほっとした。
こんなやり方、ガキくさいって分かってるけど、でも恋次にはこういうふうに身体に言って聞かせるのが一番効く。
だってコイツは自分以外の誰も信用してないから。
深いところでひとりぼっちなヤツだから、言葉なんかじゃムリなんだ。
そっと髪を梳いてみる。
恋次はひどく疲れた顔をして眠ってて、起きる気配もない。
こんなに齢を取っているのに、どうして大人になれないんだろう?
良しにつけ悪しきにつけ、俺が大人だと思ってるヤツらのツラが脳裏を横切ったが、そこにやっぱり恋次は居なかった。
俺は恋次のことを少し可哀相に思った。
コイツは、どこかで何かきっちり線引きしてて、そこには多分、ルキアさえも立ち入れない。
だからキツい。
先に進めない。
理屈とか理性とか、そんなものは絶対に受け入れないと、両足を踏ん張ってこっちを睨みつけてる子供の恋次の幻想が見える気さえする。
ふうと小さくため息をついて枕に顔を埋めると、恋次が尸魂界から運んできた香りが染み付いてる気がした。
その暖かささえいつもと同じなのに、恋次の心は此処に無いんだ。
こんなに近くに居るのに。
少し胸が痛んだ。
このままずっと恋次の寝顔を見ていたいと思った。
でもゆっくりとした呼吸と時々震える睫毛を見てるうちに、耐えられないぐらいの眠気が襲ってきた。
いつの間にか落ちてしまった夢の中で恋次は泣いてた。
今と同じで、涙なんか流さずに。
→ 2へ
<<back