「動き続ける100の御題」より (配布元 / せっと)
はっと気がつくと、ずいぶんと深く眠ってたみたいで、部屋の中が明るくなってきてた。
もう夜明けか、もうすぐ帰ってしまうのかと隣を見ると、恋次が寝返りを打ったところだった。
汗で湿った髪を少し撫でてやったが、全然、反応が無い。
ずいぶんよく寝てるんだなと布団を被りなおそうとしたら、突然、恋次が俺の方に向きなおった。
目が開いて、真紅の瞳が俺を映してる。
「あ…、悪りィ、起こしちまったか?」
少しびっくりしたから大きな声になってしまったけど、恋次は何も言わずに俺のことをじっと見て、また眼を瞑った。
寝ぼけてたのかなとそっと頬に手を当ててみると、
あったけえとか何とか恋次は呟いた。
そしてそのまま額を押し付けてきた。
「恋次…?!」
んだよ、それ。
さっきまでと違いすぎだろ?
ぎゅっとしがみつかれて動揺した俺は、
「いや、むしろ暑いし」
と反射でツッコんだ上、押しのけそうになってしまったけど、恋次の反応は無かった。
「って、あれ…、恋次?」
覗き込んでみたら、恋次はもう寝てた。
気持よさそうな寝息からして、熟睡だった。
「…なんなんだ、やっぱ寝ぼけてんのかよ」
寝顔に問いかけてみても、もちろん返事はない。
けどさっきよりはずいぶんと楽そうな顔をしてる。
さっきの抱きつき方はちょっとヘンだったけど、でもやっぱり、いつもの恋次に戻ってきてる気がする。
「んだよ、勝手に元気になりやがって…」
それはそれで嬉しいんだけど、何だか俺に関係ないところで落ちたり元気になったりって、少し寂しい気がする。
───
俺、オマエの何なんだろ。
たまには俺にもオマエを手伝わせてくれたらいいのに。
寝顔を見てたら、安心したせいか、さっきまで抑えてた気持が溢れて、
「俺、恋次のこと、すげえ好きだから」
と零してしまった。
何回も何回も告げた言葉だけど、無意識に口にしてしまったせいだろうか。
まるで自分の声じゃないみたいだった。
低くって、少し震えてて、なんかむしろ泣き言みたいに聞こえて、ヤバいと思った。
「う…」
恥ずかしさのあまり、顔に血が上る。
とりあえず恋次、寝ててよかったぜと胸を撫で下ろしたら、カーテン越しに差し込んできた柔らかい朝日に照らされて、恋次の耳朶が赤く色付いたのが見えた。
「…!」
まさかタヌキ寝入りかよ、この状況で…!
クソ、なんか俺ってすげえ恥ずかしい。
いっそ仕返しに殴ってやろうかと思ったが、ギリギリのところで踏みとどまった。
だってやっと届いたのだ。
悪いはずがない。
俺はまた恋次の頭をひと撫でした。
恋次の耳朶を染めてた熱は、寝た振りし続ける横顔全体に広がっていた。
だから俺は、この優しい色が消えてしまわないようにとずっと恋次の頭を撫で続けた。
それはとても柔らかく暖かかい手触りだった。
→挫ける
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