「動き続ける100の御題」より (配布元 / せっと)
始めたばかりの頃は駆け引きなんてもの、ありはしなかった。
全てが見切り発進で、毎回がぶっつけ本番。
恋次に操られるまま頑張っても、期待に応えられてるとは思えなかった。
けど俺は、あの頃の俺じゃない筈。
もうあんな風に泣かせたりなんかは、しない。
なかせる
抱え込んだ恋次の裸の背が、不意に強くしなる時があった。
最初の頃は理由も分からなかったが、
それがキツいせいだと知ってからは、動きを止めて恋次が落ち着くのを待っていた。
堰き止められた快感が逆流するその苦しさ。
いくら堪えようとしても息が漏れ、体が震える。
続きをせがんでるみたいで、みっともねえったらありゃしねえ。
けど計ったように限界点のギリギリ手前で、
恋次は少しだけ振り返り、流れ落ちる髪の隙間から睨みつけて来る。
そして何やってんだクソッタレさっさと済ませやがれと毒づく。
内容とは裏腹の甘く掠れた声音と、挑発的に笑んでみせるその口元にクラクラする。
ちくしょう。
テメエ、泣いても知らねえぞ?
それでも思い切りのつかない俺は、そろりと動きを再開してみる。
するとやたらと甘い吐息、わざとらしい締め付け、俺の焦りを確認して満足げな紅い虹彩。
本当は、ただの強がりなんだ。
痛くて、キツくて、本当は止めたいんだ。
けどコイツは絶対、無理だとか止めろとか言わねえ。
とんでもねえ意地っ張りなんだ。
けど、そこまでわかってても、あんな眼で見られて我慢なんてできるわけがない。
弾けた理性のタガなんてそっちのけで貪りつくすのがオチ。
音が消えて、恋次の反応とかも全く目に入らなくなって、ひたすら自分の欲をぶつけて、
ようやく精を吐き出せて我に返った頃には、恋次はぐったりと布団に倒れこんでる。
心配になって覗き込むと、やけに柔らかな視線とかち合ったりする。
それが妙に照れくさかったりして、小突かれながらも抱きしめたり、また始めてみたり。
けど激しすぎた時に、恋次の目の端に水滴が引っかかってることがあった。
何度、唯の生理的なもんだと聞かされてても、泣かしちまったと後悔の泥沼。
痛くて辛かったんだろうし、それを我慢したから出た涙だったんだろうし。
固まった俺を、それでも恋次はゆっくりとあやしてくれた。
これじゃまるでガキじゃねえかと思っても、それはとても心地よかった。
だから次こそはと俺は決意を新たにする。
恋次はそんな俺を思いっきりからかいながらもゆっくりと待つ。
そしてまた二人で熔ける。
そんなことの繰り返しだった。
「・・・・・んっ・・・」
頃合いを計って深く打ち付けると、
きつくたわんだ恋次の背が、腰の低いところ窪みをつくった。
見えないけど、恋次は今、ここで一番感じてる気がする。
だからそれが零れてしまわないようにと、俺は動きを止める。
すると恋次の体が微かに震える。
反り返っていた背が緩く丸まり、寄っていた肩甲骨が離れて肩がすくめられる。
体重を支えていた腕からも力が抜けたんだろう。
ぽふっと頼りない音を立てて恋次の上半身が布団に崩れ落ちる。
きっと今、恋次は眼を瞑ってる。
その息が落ち着くのを待ってゆっくりと腰を引くと、また背が反り返った。
ギリギリのとこまで引き抜くと、何を期待してるのか、恋次の体が少し緊張する。
だからまた同じぐらいの速さで緩やかに、
けれどちゃんと恋次の好きなところを狙って押し込んでいく。
腰を高い位置で固定して見下ろしてるから、恋次の全部を支配してるような気分になる。
恋次はそんな俺の浅はかな優越感なんかそっちのけで、
揺られ揺さぶられて快楽の波に漂ってるように見えた。
けど、
「ク・・・ソ・・・、もたもたしてん・・じゃ、ねぇッ」
と相変わらずの悪口雑言で急かして来る。
「・・・っせぇよッ」
こっちは忙しいんだ、テメエの感じてるもの、感じようとして。
いつもオトナだと威張ってんじゃねえか。
なら俺の苦労も少しは察しやがれ。
恋次が最高に不機嫌そうな顔で睨みつけてきた。
だけどもう、そんなもんで焦ったり煽られたりで理性を飛ばすようなヘマはしない。
素直に蕩けるようなツラ、見せてみろよ。
もっと見てえんだよ、テメエのよがる姿。
俺は、ことさらゆっくりと動きを再開した。
なかせる 2>>
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