「動き続ける100の御題」より (配布元 / せっと)

「う・・・、く・・・ん・・っ・・・」
まただ。
始めたばかりの時には耳にすることのなかった切羽詰った声。
聞きなれた嬌声じゃない。
もちろん悲鳴でもない。
けれど全然、甘くなんかない。
息を殺したような、痛みを堪えるような、酷く辛そうな声。

なあ恋次。
ちゃんと感じれてんのか?
逃げ場が無くてキツいからそんな声を出してるのか?
追い詰めてるのは俺か?


不安に駆られ、肩を掴んで背を捻じり、喘ぐ唇を斜めに咥え込む。
半開きなのを幸い、舌を滑り込ませると、恋次の唇も舌も喰らいつかんばかりの反応を返してくる。
だがそれも一瞬。
熱く蕩けきってたはずの唇は前触れもなく噛締められて、俺を拒む。
眼もきつく閉ざされて、その紅い色を隠したまま。
更には顔までが布に埋められ、腕と髪で覆われて、何も見えなくなってしまう。

何だってんだよ。何なんだよ。
声も聞こえねえ、眼も見えねえ。
これじゃテメエのこと、何もわからねえんだよ。

強く丸まった背は、もうさっきまでの快楽の波も見せてくれない。

キツいんだろ?
じゃあ何で言ってくれない?
止めろって言ったら、俺、止められるぜ?
何で我慢すんだよ?

ひたすら黙り込む恋次の心情を推測しだすと、やりきれない。
焦りのあまり、腰を強く打ち込んでしまう。
粘膜同士が擦れ、反発しあう感覚に、脳髄が痺れる。

堪んねえ。
恋次は辛いのに、我慢してるのに、それなのに本能には逆らえない。
肉同士が生み出す快楽に逆らえない。
こんなに俺は弱かったか?
もうヘマはしねえんじゃなかったのか?

深く捻じ込んだのを押し付けるようにすると、繋がった箇所から粘着質な音が響いた。
聴覚まで持っていく あまりにも圧倒的な快感に、
「・・・クソッ・・・」
本音ともつかぬ悪態が漏れ出る。
だって、もうコントロールなんてもんはぶっ飛んじまった。
自動的に動き続ける腰からは絶えず快楽の波が湧き上がってくる。
視界は鮮明、けれど奇妙に遠くに見える。
恋次の肌を走る直線的な刺青がたわみ、汗粒が筋となって零れ落ちていってる。
コイツは俺のもんだと身の裡で叫ぶ、今まで感じたことの無い独占欲が俺を縛る。



「ん・・・・・、ん・・・・・・っ」
やっと呻き声に、鼻にかかった吐息が混ざりだした。
その甘さが、俺の腹の中、深いところを強く刺激してくる。

止めろ、恋次。
これ以上、煽るんじゃねえ。
俺はこのままじゃオマエを壊してしまう。

ヤバい一線を越えそうな気がして、とにかく動くのを止めようとした。
けど、ここで堰き止めるのは、さすがにキツかった。
「グ・・・ッ・・・・」
思わず呻き声が漏れる。
自分のじゃないみたいだった。
そしてその瞬間、恋次の背がひどく強張った。
「い・・・ちご・・・」
切羽詰った声で名を呼ばれ、
ダメ押しのようにぎちりと締め付けられて、痛みに似たギリギリの快楽が背を駆け抜ける。
そして僅かに残していた理性の最後のひとかけらを吹っ飛ばす。

俺は抑えてた全てを解放した。
シーツに半ば埋まってた恋次の上半身を起こして抱き込み、
もがいて逃げようとするのを赦さず、ただひたすらぶつけた。
首筋に噛み付き、ギリギリまで引き出しては、思いっきり突き入れた。
恋次はもう呻き声なんか上げてなかった。
全ての吐息が狂ったような嬌声となって、
抵抗なく揺さぶられる身体と共に、どこかキレた俺をさらに煽った。

最後に、抉るように捻じりこんで、一番奥深くで精を吐き出した。
すると恋次が啼いた。
それはとてもか細い声だった。





「ん・・・・」
「目、覚めたか?」
「・・・・・・俺・・・?」
ようやく焦点が合った恋次の目元に、小さな水滴。
「なかせちまった・・・か?」
拭ってやると、ふいっと恋次が顔ごと視線を逸らした。
「ごめんな」
進歩無さ過ぎて、同じことの繰り返しで。
「・・・ッせぇ。んなセリフ、テメエにゃ百年早えぇよ・・・」

らしくなさすぎる弱々しい声に、俺は正直、びっくりした。
だって恋次の声、甘く掠れて耳に蕩ける。
泣いちまった後にこんな声、聞かせてくれるなんて初めてだ。
いつもなら無理にでも元気にしてみせるのに。
俺の頭をヨシヨシって撫でて励まそうとして、俺はつい殴ってしまったりするのに。

そして気がついたんだ。
恋次の髪の隙間から覗く耳朶も首筋も、とても可愛らしい色をしていたことに。


恋次はその後も、顔を背けていたが、
その横顔と目尻に残る水滴が、何よりも雄弁なように俺には思えて、
いつまでもいつまでも髪を梳き続けていた。


→「支える」ちょいエロ甘

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