「動き続ける100の御題」より (配布元 / せっと)


舐める



「ふっ・・・ん、・・・ううっ」
自分の体に裏切られることほど歯痒いこともない。
堪えれば堪えるほど、堰を切ったように声が漏れ出てくる。

ぴちゃ、と耳に木霊する水音は、いつもより熱心な一護の舌のせい。
床にへたり込んで、一護のベッドに片手でしがみついて、
もう一方の手で自分のソコを解すという自虐的な行為の上に、
真横に陣取って俺の耳だの頬だのを舐め続ける一護の存在に煽られて、声が抑えきれない。

「止めろっつってんだろ・・」

必死で抑えて言葉を紡ぎ、一護の顔を押しのけて一息ついた。
けど抵抗せずに去った一護の貪欲な舌は、標的を変えただけ。
辛うじて纏わりついてるシャツの襟を引きろして背に忍び込む。
息がかかってヒヤッとする。
背骨から頚骨に舐め上げられて肩が上がる。

クソ一護め、と心の中で悪態をついたがもう遅い。
首筋を甘噛みされると意に反して背が大きく反り、指が抜けた。
縁を舐めて滑り出る指の思わぬ刺激。
爪の置き土産、甘い痛みに声が上がる。
自分の指だというのに。

「・・・いいかげんにしろよテメー」
また最初からやり直しかよ。
きゅうっと縮んでしまったソコを感じて、俺はイラっとした。


こんなクソ暑い真昼間、一護の目の前で自分でやってるのはあくまでも必要上。
怪我して両手が利かない一護の代わりに、自分の手を使ってるだけ。
つまりいつもの手順を踏んでいるだけ。
さっさと解して乗っかって、エロガキをイかせちまえばオシマイ。
そう割り切ってるってのに、なかなかうまくいかない。
一護が邪魔するからだ、きっと。

イラついている俺を尻目に一護のバカは眼を閉じたまま、延々と俺のことを舐め続けてる。
怪我で両手が失った自由と共に、言葉まで失くしたみたいに。
これじゃあまるで獣と情を交わしてるみたいだ。

・・・だとしたら、その獣の前で自慰に耽る俺は一体何なんだ?

「・・・くそっ」
小さく毒づいて、また指を足の間に差し入れた。
堂々巡りを続けるより、さっさと終わった方がマシ。
さっきよりはだいぶ緩くなっている筈だし、あともう少し。
そしたらこの苦行からも解放される。

なるべく周りの状況とか考えないようにして、指への意識の支配を解く。
指は快感の糸を手繰るように、勝手に奥へ奥へと入り込んでソコを目指す。


頭を横から照らしつける夏の日差しがジリジリと体温を上げていく。
きっと体一杯に太陽を浴びてる一護はもっと体温が高い。
横目で見ると、ほら、すげえ汗。
キラキラ光ってる。

こめかみを滑った一滴が、 鼻先からポタリと落ちて、俺のシャツを濡らした。

「あ・・・・っ!」

急に敏感なところに指先が当たって、腰に鈍く、殴りつけるような快感が走った。
自分の指がそんなとこまで入り込んでることに気がつかなかった。
一護の汗なんかに気を取られてるからだ、クソッタレ。
気が遠くなりそうな直接的な快感に、なけなしの理性を持っていかれる。

「ふう・・・・ん、んっ・・・、あっ・・、ううっ」

規則的に動き出した指はもう自分のじゃないみたいだ。
貪るように抉り続ける。
耐え切れず、もう一方の手も自身に添えて、前後に荒く動かす。
額をベッドの端に押し付けて上半身を支えると、自分を弄る両手が丸見えだ。
他人の手のようなそれが、俺の体で遊んでいる。
俺はその手を逃げられない、視線も逸らせない。

「はあっ・・・ん、・・・んんっ」

自分の声が、粘着質な音に塗れて響くのさえたまらない。
涎とも汗ともしれないものが、両手に落ちる。
滑りの生み出す快感は、脳髄を直撃して強烈な衝動を叩き出す。
逆らえない。
意識が遠のく。あと少し。


「・・・・イイのかよ」

まさにイく直前。
低く掠れた声の方を向くと、いつの間にか床に転がった一護が、下から俺を覗き込んでいた。
その眼に思わず手が止まる。
快感が逆流する。
声も出ない。

「・・・・っ」
「俺がするよりイイのか?」

舐めるように纏わりつく視線。
それが嗤いを含んでいるようで、いたたまれない。
けどイきたくてたまらなくて、眼を閉じて一護の存在を閉め出す。


ぴちゃ、と音がした気がした。

「ああ・・・っ!」

痺れるような快感が背筋を遡った。
目を開けると、視界一杯のオレンジ頭。思いっきり咥えられてる。

「・・・手ェ止まってんぜ?」

くぐもった声でそう言って動き出した一護に前のほうを任せて、
欲望の指し示すまま、後ろに突っ込んだ指を増やして動きも強める。
空いた手は一護の髪を鷲掴みにして、こぼれ出た衝動を逃す。
自分でしてる筈なのに、コントロールがきかない。
一護にされてるみたいだ。
訳、わかんねえ。

「も・・・ダメだ、イくっ・・・っ」

泣き言がこぼれた途端、一護は俺のに軽く歯を立て、強く吸った。
強烈な開放感と共に、ありえないぐらいの絶頂感、
そしてとんでもない脱力感。
・・・・何なんだよ、これ。

ようやく波が去ってみると、はっはっと自分の口から漏れる息遣いがやけに大きく聞こえる。
両腕をベッドに戻して上半身を支え、目を開けると膝の上には仰向けになった一護。

「・・・早く脱がしてくれよ。俺、手ェ使えねえんだ」
そう言って包帯でグルグル巻きになった腕で口元を拭い、にやりとする。

そうだった、コレはただの前哨戦。
本番はまだだったと、今更ながらに思い出す。
一護のギラつく眼に込み上げる欲望を覚えながらも、ちょっと焦らしてみたくなった。
だってまだ身体の隅々に、さっきまでの快感が残っている。
もうちょっと浸っていたい。

だから俺は、
「ちょっと休憩・・・」
と言って、焦れた一護の口の端、残った俺の精液を舐め取った。





さする>>

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