「動き続ける100の御題」より (配布元 / せっと)



乗せる



あ、もうだめだ、と珍しく泣き言を言って恋次がへたりこんだ。
どしたんだよ、と腕を取ると、

「だめだこの義骸。動きゃしねー」

と大きく息をついて、そのまま地面に寝っころがった。
確かにしんどそう。息が上がって、顔も赤いし、呼吸も速い。
でもこれはたぶんアレだ。

「ちょっと待ってろよ」

おい待てよと赤いホッペタで見上げてくる恋次がちょい可愛くって未練が残ったけど、
とりあえず救援物資を手に入れるために、俺はひた走った。

 

戻ってみると、死神入り義骸は眼を瞑って寝っころがり、あぢいと呻いていた。
そんなに暑いのなら、義骸から出るとか影に入るとかすりゃあいいのに。

「・・・ほら、起きて口開けろ」

でもヒトの話なんか聞いちゃいねえ。
うげえと力なく呻くだけ。
いつもながらの横柄な態度にイラっとしたので、恋次の顔の横にしゃがみこみ鼻を抓んだ。
うあ、とかマヌケな音を出して、口がぱかりと大きく開くから、買ってきたばかりの缶飲料を流し込んだ。

ごほっぐえぇっと盛大な音を立てて恋次は咳き込み、慌てて起きあがり、
ひとしきりむせたあと、怒鳴りつけてくる。

「・・・何しやがんだテメーっ!!」

いや、その涙目可愛いから。

「熱射病だもん、オマエ。ちゃんと水分取れよ」
「何だそりゃ。ちょっとチャリ乗ったぐらいで何で熱射病とかなるんだよっ」
「ってその義骸、人間仕様だろ」

う、と言葉に詰まった恋次に畳み掛ける。

「つかテメー、義骸だって忘れてただろ」

さらに副隊長、硬化する。

「死神じゃねーんだ。テメーみたいに無茶な使い方してりゃー、そのうち壊れるぜ?」

副隊長、逆切れ。

「ううう、うるせーー! ちゃんとチャリも義骸も乗りこなせるようになっただけエラいと言え!」

ぽん、と両肩に手をやってため息をつき、大上段に構える。

「乗るだけじゃ意味ないの。管理もしないとダメなの。わかるか?」

あ、完全にキレた。
こめかみに青筋が立った。

「テメーがそれを言うかっ!! 昨日、さんっざん乗りやがっただろうが、この義骸にっ!!」

・・・あ、そうだった。

「壊れるとか管理がどうとかテメーが言うか、あァ?
 誰のせいでココまで義骸の体力落ちたと思ってんだ。偉そーに御託を並べやがって・・・」

恋次が指を組み、ぽきぽきと関節を鳴らしだした。
宥めなきゃと、手にしていたスポーツ飲料の数々を差し出してみる。

「と、とりあえずコレ、飲んで体力回復だ、な?」
「ほう、体力回復。そりゃーいいな。テメーが飲め。そんでこの義骸、運べ。いいな!」
「ま、待てよっ!!」

止める間もなく赤死神は仮の肉体を滑り出て、虚空に飛び去った。

「まじかよ・・・」

 

そんなわけで今年最初の真夏日。
完全に力が抜けた上、目立つことこの上ない巨体を運ぶことに気力と体力を使い果たした俺は、夜になっても疲労困憊。
そして横には体力と面目の完全回復を果たし、大満足で熟睡中の赤死神。
襲いくる睡魔に勝てない俺は、恋次の健やか過ぎる寝顔を横目に誓った。

ちくしょう。明日を見てろよ。




じゃれる>>

<<back