「動き続ける100の御題」より (配布元 / せっと)
誘う
「誘ってんのかよ?」
不満そうな声に見下ろすと、見るからに不完全燃焼な薄茶の目が俺を凝視していた。
その目つきがあまりにも不遜かつ真剣で、
熱情と肉欲と、そして少しの不安を雄弁に物語っていて、
揶揄せずにはいられない。
「・・・なわけねーだろ?」
ふざけた調子で額を軽く弾いてやると、
既に期待で薄く半開きになっていた唇が、むっと歪んで引き結ばれた。
その髪に指を這わせたい衝動を、
あるいは肩を抱き寄せてやりたい衝動をやり過ごし、
どうか余裕たっぷり見えるようと願いながら、
殊更に見下げて薄く笑い、己の指を軽く噛んでみせる。
俺の視線を無意識に避けた一護の眼が、
今度は俺の口元に吸い寄せられたその瞬間、
くっと膝を曲げて、視線を同じ高さであわせる。
戸惑いを隠せない一護の視線があてどなく彷徨うから、
「テメーが誘わせてんだ」
と頭を引き寄せて耳元で囁き、そのまま耳朶を甘噛みすると、
ようやく意味を悟って流れが掴めた子供が、
嬉しさを隠せない様子で襟元に手をかけてきた。
なんて単純で愛しいことか。
そうやって惜しげなく曝す感情で、
くるくる変わる表情で、
その眼に揺れる不安で、
絶えず誘ってくるのはオマエのほうだ。
自覚がない方が罪が重いという忘れかけていた真実が、
拭いきれない罪悪感を少し軽くしてくれた。
のせる>>
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