「動き続ける100の御題」より (配布元 / せっと)


背を向ける



「この辺か?」

確認とも取れる声に見上げれば、空は蒼。
何の兆しも見せず、広がる平面。
そして正面には、上空を睨みつけたまま歩き続ける一護の背。

「おい」

数歩先、小さい子供がしゃがみこんでいるのに気がついていない。
駆け寄って肩を掴んで引くと、びくっと驚いた様子で振り返った。
構えすぎだ、バカ。

「テメーがちゃんと気ィつけろよ。俺たち、見えてねえんだぞ?」
「あ、ああ・・・。ワリィ」


躓き損ねた足元の子供を見ると、小さな指の間には何かキラキラ光るもの。
一心不乱に見入っている。
ガラスのカケラか、あるいは金属片か
太陽の光を受けてキラキラ光る。
子供の頬にも反射して、キレイな虹色。


「よく見つけるな、あんな小さいもの」
呆れたように呟くと、
「年寄りにはムリか?」
と間髪入れず茶々を入れてきた。

「ムリだな。俺の位置からだと地面が遠すぎる」
と軽い口調で応酬すると、
そうか、と一護が空を見上げて、笑いを漏らした。

わかってるのか?
テメーのほうがうんと地面に近いんだ。
よく見えるはずだろ。
見つけてみろよ、小さくてもキラキラ光るガラスのカケラ。
でもテメーは上ばかり見て、遠く遠くを目指して。

そんなに空ばっかり見てても、足元が見えるわけがないだろう。
足場を固めずに、飛び立てるわけがないだろう。
オマエの生きる場所は、ここじゃねーのかよ。
何をそんなに行き急ぐんだよ。
見てて、イラつくんだよ。


ガスッ、と思いっきり拳固をオレンジ頭のテッペンに食らわした。

「・・・イッテェェェッ」
「おらおら、大口あけて上見てっとバカ丸出しだぜ?」
「んだとぉ?」

痛さのあまり、一護が涙目になって怒ってくる。
それがまるっきり唯の子供の表情だから、なにやら可愛らしく、ついぐりぐりと髪を掻きまわす。

「触んじゃねーーーっ!!」
俺の手に押さえつけられて身動きできず、じたばたする様子が余計おかしくって。
つい、調子に乗って更に髪を掻き回し続けると、ついにキレた。

「ざけんな、このヤロウッ!!」
「イテェッ、蹴ることねーだろっ!!」
「自業自得だ、このクソ赤死神っ」
「んだとぉっ!」

いつものバカ騒ぎになったその瞬間、
背筋を這い上がる違和感と音に鳴りきれてない振動が満ちて、
空間が軋み、現世と虚圏とが繋がり始めた。

「指令どおりだな」
「・・・行くぜっ」

一護の眼がぎらつく。
子供の表情が一瞬にして消え去り、また闘う者の顔に戻る。


そして一護は俺に背を向け、走り出した。



みせる>>

<<back