「動き続ける100の御題」より (配布元 / せっと)
赤面する(5ページ)
せっかくの日曜日。
厳しかった寒さも緩み、いわゆる小春日和ってやつ。
つかもう2月も半ばだし、ほんとの春なのか?
なのに俺はと言うと、机に齧りついてた。
少し立て込んでた死神代行業のせいで、またしてもテスト対策が遅れ気味になってたからだ。
とはいえ、せっかくのこの陽気。
外に出たくてうずうずしてしまう。
だから区切りのいいところまでやっつけたら出かけるつもりでいた。
「よし、終わった!」
勢いをつけて立ち上がり、耳に突っ込んでたヘッドフォンを抜き取って、椅子ごとぐるんと回った。
すると、窓のところに俺の紅い死神が居た。
「れ、恋次…!」
「う…。い、一護…」
恋次は、しまったというツラして、顔ごと視線を逸らした。
「…恋次。何やってんだ、オマエ…」
「う…」
恋次が逸らしたままの顔を真っ赤にすると同時に、
いつの間にか開けられてた窓から、ひゅうっと風が吹き込んできた。
日向だと暖かいぐらいなのに、空気はまだひんやりとしてて、
上気してた俺の顔も頭も、一気に冷やしてくれた。
一方で恋次の顔はどんどん赤くなっていった。
普段とはまるっきり逆転したこの状況に、俺はマジマジと恋次を見つめた。
恥かしいのかな。
ま、これで恥ずかしくないわけ、ねえよな。
俺だってびっくりだ。
だって恋次、窓に見事にハマってる。
パンパンに膨らんだ怪しげな大袋を担いで
窓枠に跨った妙な姿勢のまま、全く身動きが取れなくなってる。
なんつーザマだよ、それ。
それに、いつからそこにハマってたんだ?
全然、気がつかなかったぜ。
俺、確かに音楽聴いてたし、霊圧に関しては鈍いのも認める。
けど、ほかでもない恋次だ。
こんなに近くで気付かないわけがない。
ってことは、霊圧までご丁寧に消して、こっそりと忍び込もうとしたんだろ。
悪巧みするからだ、このバカ。
俺は腕を組んで、恋次を観察した。
いっそ荷物を一旦、投げ出せば、自分だけでも部屋の中に入れるだろうに、
よっぽど大事なものをしまっていたるのか、何とか部屋の中に運び入れようとしてる。
けど身動きするたびに、抱え込んだ大袋の中がジャラジャラと音を立てて崩れ、
恋次と窓枠の間をずっしりと埋めていってる。
うーん。
どっからどう見てもマヌケだ。
「あのな、恋次」
「…一護」
思わず声をかけたら驚いたことに、恋次は縋るような眼をして俺を見た。
「う…」
なんてツラをしやがる。
誘ってんのか、チクショウ!
こんな弱気な恋次には、本当に滅多にお目にかからない。
普段なら千載一遇のチャンスと飛びついてしまっただろう。
けど俺は、開ききった口が塞がってなかった。
恋次も、そんな俺の反応の意味が嫌と言うほど分かるらしく、ひたすら俺を見返してくる。
可愛いっちゃ可愛いんだけど、でも。
───
とりあえず、原点に戻ってみよう。
「…なぁ、恋次。何でオマエ、そんな格好で窓にはまってるんだ?」
「う…、煩せぇッ! いいから早く俺をどうにかしろ!!」
いや、どうにかしろって言われても。
オレは椅子に座ったまま、深くため息をついた。
せっかく会えたのは嬉しいけど、
久々の再会がコレ、しかもこんなんが俺の恋人(しかもかなり年上)だと思うと、何だかちょっと情けなくもある。
けど、そんな俺の複雑な心境など知ったこっちゃない恋次は、
ひたすらジタバタともがいては、ますます身動きが取れなくなってきてる。
その分、俺のアタマはどんどん冷えて、冷静になっていく。
「…なあ。オマエ、それじゃサンタっつーよりはアレだな、節分の鬼だな。赤いし」
「んだろコラァッ!!」
「確かどっかに豆、残ってた筈だな。投げつけてやろうか?」
「テメエッ! それがはるばる会いに来てやった俺に対する仕打ちか?!」
はるばるっつってもなあ。
怪しすぎるだろ。つか本当に会いに来たのか?
何か妙なもん、俺の部屋に仕込みに来たんじゃねえのか?
先日のパンツ&靴下忍び込ませ事件といい、最近のコイツは調子に乗りすぎてる。
このままじゃどこまで暴走するのか分かりゃしねえ。
つか一体、その荷物は何だ。
何を俺の部屋に持ち込もうとしてんだ?
つか腐っても死神だろ。
ムダにデカイ自分の体のサイズぐらい把握しろ。
俺は、自分の眉間に思いっきり皺が寄るのを感じた。
恋次は恋次で、さすがに限界だったんだろう。
「このクソ一護ッ!! テメエ、そこでボーっと見てねえで手伝えッ!!」
と思いっきり怒鳴りつけてきやがった。
「ヤだよ。なんで俺が」
椅子の背もたれをギッチリ抱えてみせながら、売り言葉に買い言葉を返すと、
「んだとテメエッ! 壁、壊すぞッ」
と恋次はキレた。
…壊すのは窓じゃなくて壁かよ、オイ。
けどこの勢いじゃいきなり蛇尾丸、振り回しかねない。
と、そこまで考えて、やっと俺は気がついた。
…恋次、死覇装姿じゃねえ!
ってこたあ、義骸か? 義骸なのか?!
クソ、日曜日の真昼間、俺ん家の窓でなんて目立つことしてくれやがるんだ!!
外からの風景、
つまり、大荷物を抱えた赤髪の大男のケツと片足が窓からにょっきりと生えてる風景を想像した俺は、
警察に通報されるのも時間の問題だと、今すぐ、恋次を窓から蹴落としたくなった。
→赤面する2
<<back