「動き続ける100の御題」より (配布元 / せっと)
「オマエなあ…!」
頭に血が上った俺は、恋次の頭の両脇に手を付いて、クッションから起き上がろうとした。
だけど、
「うおッ…?!」
崩れ落ちるクッションに手も足も取られて、中々抜け出せない。
なのに恋次はといえば、ジタバタと暴れる俺をゆったりと眺めて、しかもさりげなく邪魔してきやがる。
余裕溢れる薄笑いまで浮かべてる。
「くそッ。ジャマだ、テメエ! 退け」
これじゃさっきまでの恋次とおんなじじゃねえか。
立場逆転じゃねえか。
仕返ししてるつもりか?!
けどな!
こんなことで俺が折れると思うなよ?!
俺は恋次の腕を払い、ぐいっと勢いをつけて床の上に転がり落ちた。
ガツっと頭を打ったが、この際、構っちゃいられねえ。
転がった勢いを利用して身体を起こすと、
少し驚いたツラで、恋次まで上半身を起こした。
「ヘヘ。ザマーミロ」
俺は身構えて、恋次の反撃を待った。
でも恋次はまたクッションに寝転んだ。
ざぶりと上半身が黒いレザー地に埋もれる。
そして、
「…んだよ」
とそっぽを向いた。
「へ…?」
予想外の反応に、俺は構えを解いて、さりげなく恋次のツラを覗き見た。
そしたら口がヘの字になって、しかも唇が少し尖ってた。
しかも視線は思いっきり俺の反対側。
「…恋次?」
返事がない。
「れ…、恋次?」
「…」
ダメだ。
完全に拗ねた。
「オイ、恋次! なあ? どーしたんだよ急に? なあ、」
すると恋次は、視線を逸らしたまま、
「…テメーも気にいると思ったのによー」
とぼそりと呟いた。
それはムリだ。
テメーと俺じゃシュミが違いすぎる。
…だけど。
俺は改めて、恋次と、恋次が埋もれてるクッションを見た。
もしかして恋次、俺と一緒に使うために買ってきたのか?
だからこんなに長さだけじゃなくて幅もあるのか?
それはいかにも二人用というサイズで、自宅暮らしの高校生の俺の部屋には酷くそぐわないものだった。
こういうものがあるとは知ってたけど、いつか誰かと住むようになることになった時に買うもので、
今の俺には関係ないものだと、思考の外だった。
…つか、いつか誰かと住む?
誰かというか、俺と恋次が一緒に?
ってことは同棲?
つまりコレは予行演習…?
「…!」
脳裏に浮かんだ未来の俺たちの姿に、ボッと顔に火がついた音がしたかと思った。
それぐらいの勢いで頭と顔に血が上った。
ヤバい。
想像が止まらない。
今や、エプロンしてる恋次の姿までチラチラする。
「う…」
そういや恋次、まずはパンツとか持ち込んできやがった。
で、次は二人用のクッション、つかある意味、布団みたいなもんだろ?
…そうか。
これが俗に言う、お、押しかけ女房ってやつなのか。
その言葉が似合う、似合わないは別にして、
…いや、悪くはない。
俺としては決して悪くはないんだけど!!
→赤面する5
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