「動き続ける100の御題」より (配布元 / せっと)



「一護…?」

急に黙り込んでしまった俺を不審に思ったんだろう。
しばらくの沈黙の後、恋次はこちらを向いてしまった。

「オイ。オマエ、何、真っ赤になってんだ…?」
「な、何でもねえッ!」
「ははーん…」
「…!」

うわああ、なんだよその笑い方!
テメエ、なんかスゲエ勘違いしてるだろ?!

「もしかして溜まってんのか?」
「ち、違…ッ」
「このくっしょんでヘンなこと考えたんだろ?」
「違うっつってんだろッ!」

つか向こうを向け!
頼むからそんな楽しげな眼で俺を見るなッ!
つか俺、もっとスゲえこと考えてたんだ。
いまさらクッションの一つや二つで赤くなるか!
ガキじゃねえっての!

けどどうにもこうにも分が悪い。
慌てて俺は、その場を逃げ出そうとしたが、恋次が一歩、早かった。
そして、
「うおッ?!」
と、さっきと同じく、また手首を掴まれて、恋次の腕の中に転がり込んでしまった。
ざぶっと、クッションが悲鳴をあげる。

「は、離せッ」
「やだね」
「恋次ッ!!!」

だけど恋次はもがく俺に取り合う様子も無く、両手両足を絡めてきた。
半月という永遠に近い空白の後だから、
密着する恋次の肌の感触とか、身体の線とか、髪の匂いとか、唇に触れる汗の味とか、
そういうものにものすごく敏感に反応してしまう。
心を置き去りにして、身体が暴走してしまう。

「う…、クソ、離せって。頼むから!」
「イヤだっつってんだろ?」
「恋次ッ!」

恋次は少し姿勢を変えて、俺の身体を自分の横に下ろした。
クッションが形を変え、俺の身体は沈み込んだ。
それでも恋次の腕は俺の背中をしっかりと捕らえてる。

「なぁ、一護。テメーだけじゃねえんだぜ?」

耳に直接吹き込まれる湿った言葉に、身体の芯がずくりと疼いた。

ダメだ。
もう止まりそうにねえ。

「クソッ! 何かあったら責任取れよ? この色ボケ死神ッ!」

俺は、恋次のシャツを乱暴にめくった。
そして気がついた。
確かにこの黒に赤は映える。
肌の色も、墨だってきっと。
…ってことは最初っからこういうつもりだったんだろ、確信犯だろ!
ああクソ、 テメーはある意味、ムダに自分を知りすぎだ、チクショーめ!!

俺の視線を受けて、 恋次はにやりと口の端だけで笑った。。
だから、いつもに増して余裕綽々の恋次の肌を苛めてやろうと思ったけど、
すぐに変形してしまうクッションのせいで、なかなか思ったような姿勢がとれない。
これじゃあ、下になった恋次の方がずっとずっと有利だ。
こんなことで負けてたまるか。

ぎっと睨みつけてやると、恋次は俺の心を見透かしたように、
「なあ。やっぱこのクッション、いいだろ?」
と自慢げに笑った。
それがあまりに子供っぽい笑顔だったので、俺も少し笑った。




そして俺たちは、せっかくの小春日和だってのに、そのまま部屋に篭り続けた。
春はきっともう、そこまで来てる。



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