「動き続ける100の御題」より (配布元 / せっと)
企む (5ページ)
参ったな、と恋次は、
仄暗く四角に浮かび上がっている天井を仰いだ。
時は夜。
丑三つ時も過ぎたとはいえ、時の進み方さえも異なるこの現世では、
朝に近い今が一番、人の意識が夢の向こうへと渡っている時刻だろう。
なのに眠れない。
睡魔の気配さえ感じられない。
恋次は、寝返りを打つついでに隣を見た。
思いっきり暴れてスッキリしたのか、一護は熟睡してる。
深く閉じられた瞼も、
かすかに開かれた唇も、
柔らかく上下する布団の下の胸も、
自分の睡眠に没頭してるのだと告げている。
夜半を過ぎても夢中で睦んでいたのだから、当然といえば当然。
けれど恋次だって疲れきってる。
明日もある。
なのに眠れない。
ただの僻みとは分かっているが、
眠れずに懊悩する恋人の存在など、成長期の人間の子供には全く関係ないのだと、
あまりにも健やかな一護の寝息に、
現実を突きつけられた気がした。
だから恋次は思いっきり眉間に皺を寄せ、
ちくしょう、何がなんでも寝てやると夜闇に毒づき、
うつ伏せになったまま、決意も新たに枕を抱えなおした。
まずはぎゅっと眼を瞑ってみた。
そして心を無に近づけてみた。
現世のまじないだという羊の数まで数えてみた。
けれどやはり眠れそうに無い。
さすがにイラついてきたので、いっそ起き出そうかとも思ったが、
壁と一護に挟まれてるこの指定席から抜け出す時には、一護を起こしてしまうだろう。
明日も学校があることだし、できればこのまま朝まで寝かせてやりたい。
恋次は枕に頭を埋めた。
とはいえ、だ。
現実は厳しい。
恋次は眉間の皺をさらに深くした。
──── あー、クソ。俺だって今すぐ寝てえのに…!
一護の熟睡具合から逃れるように、
乱暴にぼふっと音を立てて枕に顔を埋めると、
ひどく柔らかいその枕は、ふんわりと恋次の頭を受け止めた。
その肩透かしな手応えに、
思わずため息が漏れ出た。
──── チクショウ、何もかもこの枕のせいだ。
恋次は横になったまま、ガクリと肩を落とした。
どんな吹きっさらしだろうが極悪の環境であろうが、
いつでもどこでも必要なだけ眠れる自信はあったが、
こんなに柔らかい枕など、想定外にも程がある。
だから頭の重さを預けきれずに、結局首も肩も背中まで凝りきってしまっている。
「あー…、くそ」
首をまわすとゴキリと年寄りくさい音が鳴った。
いっそ枕無しで寝てやれと、一護越しに枕を床に投げ捨てようとした。
その穏やかな寝顔を眺めていると、微かな痛みが胸を走る。
思い返せば、この突発性の不眠症。
全ては一護のせいとも思えた。
→企む2
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