「動き続ける100の御題」より (配布元 / せっと)


ふわぁと一護が大あくびをすると、恋次もなんだか眠くなった。
やっとぐっすり眠れる気がした。
この眠気なら、確かに一時間でも楽になるかもしれない。

恋次は一護の腹から降り、寝床に滑り込んだ。
そしてもぞもぞと二人で布団を掛ける頃には、すっかり枕のことなど忘れていた。
だからせっかく勝ち取った枕を変える権利のことなど考えず、
定位置についた途端、また羽枕に頭を沈み込ませてしまった。

「うわッ」

首がごきりと鳴る。

「クソ…、やっぱ無理だ、この枕。取っ替えようぜ」
「もうここまできたんだからいーじゃねーか。慣れろよ」

一護は深く布団にもぐりこみ、眠る体勢に入っている。

「無理言んじゃねえ。俺だってちゃんと寝たい!」
「うー、せっかく買ってきたのに」
「テメエのは下心がありすぎだ」
「下心じゃねえ!」
「下心だろ。つか寝るか、マジで…」
「…んだよ、恋次も眠いんじゃねえか」
「ったりめえだ。ほとんど一睡もしてねえんだぜ?」
「俺のコーヒー、勝手に飲むからだろ」
「こーひ?」
「中身確かめないでがぶ飲みしたアレだよ」
「あ! あのクソ苦い黒いやつか!!」
「勉強しながら汁粉、飲むかっての。テメエのは食い意地が張りすぎだ」
「チクショウ、吐きそうだったぜ。…そうか、アレはやっぱり危険な飲み物か…」
「いや、危険っていうか、慣れじゃね?
 つか恋次。義骸なんだからキッチリ起きてキッチリ帰れよ。
 じゃねーとオヤジが起こしに来た時、目を回す」
「じゃあオマエがキッチリ起こせよ」
「それが出来たら苦労しねえっつーか…。うー眠い…」

ぼそぼそと話しながら、恋次は何とか頭の位置を定めようとしたが、なかなかうまく行かない。
やっぱり羽枕は無理だと諦めようとしたとき、一護の腕が、恋次の首の下に通された。

「な? こうしたらいいんじゃねえか?」
「お、確かに。これだったら羽枕でも首が痛くねえ」
「だろ? …けどこれじゃただの腕枕じゃねえか。せっかくの枕の意味が無えような…」
「つかテメエの場合、元々、枕以外の目的が主だろ?」
「う…、煩せぇ! でも俺も恋次の頭、あんま重くなくて楽かも」
「そうなのか? 俺も試してみる。テメエ、腕どけろ。あ、ほんとだ」
「ってえなあ。もうちょっと丁寧にしろよ。つかこれならテメーの太すぎる腕でも寝違えなくて済む気がする」
「んだよ、一護。テメエ、寝違えてたのかよ」
「あ…、う、うん。時々だけど」
「なら言えよ。別に無理して腕枕しても仕様がねえだろ」
「けどその方がよく眠れるし気持いいじゃねーか。な?」

いきなりパッチリと開いた一護の目は真剣そのもので、
絶対、腕枕を止める気はないぞという気概が伝わってきた。
なんとか苦笑を抑えた恋次は、もう寝るぞとだけ答えた。
一護の返事はもう無かった。


そして二人はようやく眠りについた。
結局、真新しい枕には二人分の匂いが染み付いてしまったが、
それを抱き枕に転用したことでよく眠れるようになったので、
一護は自分の計画の結果にいたく満足した。



(終)


→赤面する




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