「動き続ける100の御題」より (配布元 / せっと)


やらせる



「痛い」
----ああ、そうだろうな。その傷じゃな。

「身動き取れねえ」
----そうだろうよ、両手じゃな。

「クソ暑いのに包帯グルグルだぜ?」
----蒸れて臭そうだな、こっち来んな。

「・・・つかちょっとは反省の色見せやがれ、このアホ恋次っ」
扇風機の前に陣取ったまま、振り向きもしない俺に一護がキレた。

「しょーがねーだろっ、不可抗力ってヤツなんだからよ!」
「何が不可抗力だ、このエセ副隊長っ」
「俺のどこがエセだっ、あァ?!」
「何もかもだっ! チャリが転ぶのもガタイだけデケえのも頭が赤くて空なのも全部だっ!!」
「・・・・テメエ、今関係ないこともさりげなく付け加えたな?」
指をボキボキ鳴らしながら近づくと、ベッドに腰掛けてた一護が立ち上がり両腕を構えた。
けどその手は両方とも傷や捻挫、その他で使い物にならない。
血が滲んだ包帯が二の腕まで巻かれてる。
さすがにコレじゃ殴る気も失せる。
腕を組んで座りなおした俺に、一護が不満そうに呟いた。

「・・・んだよ、やらねえのかよ」
「やんねえよ、ケガ人を苛めてどうするよ」
「んなのケガに入んねーよ」
「バカが。半日もすりゃあ治してもらえるんだろ? それまで大人しくしてろ」

そう言って扇風機の方に向き直ると、

「つっまんねーーーー!」

どさっと大げさな音を立てて一護がベッドに転がった。
振り向いたときに見えたのは足が跳ね上がった一瞬。
そのまま大の字にベッドに沈み込んだ一護の尖った唇が見える。
俺から見えないと思っているのか、子供らしい素直なイジケ振り。
込み上げてくる笑いを噛み殺す。

「・・・・・まじ、両手使えねえと何にも出来ねえ」
「外にでも行きゃあいいじゃねえか」
「阿呆。今こんだけケガしてて半日後に全快してりゃあ、コッチじゃ異常体質か大嘘付きなんだよっ」
「そのままじゃねえか」
「るせえっ! こっちは真っ当に高校生やってんだ! 放っとけこのバカクソ死神っ!」
「真っ当ねえ・・・・」

どこがどういう基準で真っ当と言い切るか、このガキは。

「大体テメーが無茶するからこんなことになったんだろっ!!」
「真っ当ねえ・・・・」
「ひとの話を聞けっ!!」
「・・・・・あー、あちィ」
とりあえず一瞥をくれてやり、扇風機を最大にして風を浴びる。

俺がチャリから落ちそうになったのを庇って一護がこういうことになったのだから、
おせっかいとはいえ、コイツを放って出かけるわけにもいかねえ。
転んだぐらいだったら受身を取れば何事もなかったものを。
それに大体、俺のこの体は義骸で、テメーのは本体。
その辺、ちゃんと区別をつけやがれ。


ジリジリと夏の日差しが差し込み、セミの声がやかましい。
窓が開いていても風は通らず、暑さに頭がクラクラする。
沈黙は重くなる一方で、やってらんねえ。

「・・・あー、あちィなあ」

シャツのボタンを全部外して扇風機に向き合うと、風を張らんでシャツがバタバタと音を立てる。
それがなんだか空を飛んでるみたいで気持ちよくて、目をつむって聞き入っていたから、
背後に一護が忍び寄ってたことになんて気がつかなかった。

「やらせろ」
「うぉぉっ?!」

突然、耳に息を吹き込まれてビクッと全身が痙攣した。
そのまま抱きついてきた一護がくっくっと笑い声を立てる。
仕返しだと言わんばかりの振動が背中に伝わってきた。

「離れろ、クソ暑ィ!」
「やるっつってんだろ?」

構わず一護の舌が耳に忍び込む。
背中から抱きつかれて前に回った一護の手。
その手を振り払えないのはきっと、包帯の白と血の赤が目につくせいだ。
耳朶を噛まれ吸われて背筋が反る。

「・・・んっ! は、離せって! 大体その手でどうやってやるんだ、このバカ!」
「手ェなんかなくたってできるだろ?」
「はぁ?」
「テメーが全部自分でやれよ」

自信満々の声に振り返ると、すっかりその気になった一護の顔。
薄く眼が開いたまま口唇が合わさると、暑さのせいかやけに滑る。

「気持ちイイ思いして借りまで返せるんだ。イイ話だろ?」
「なわけねーだろ! 離せこのバカっ!
 大体借りがあるのはテメーだろ。余計な世話やきやがってケガは全部自業自得だ!」
「ったく素直じゃねーよなあ」

ケガに気を使って思うように動けない俺をどう勘違いしたのか、
後ろから抱きついたままだった一護が軽くため息をつく。
なんだその態度。
むかつく。
もう耐え切れねえ、殴ってやると振り向こうとした瞬間、一護が頬を摺り寄せてきた。

「好きだ、恋次」

普段なら情交の時にしか聞けない、意地っ張りの吐く言葉。
不意をつかれて動きが止まる。
怪我をした腕がそっと俺の首に絡みつく。

「ごめんな、心配させて」
----それ、かなり大きな勘違い。

「んなショげた顔すんなよ」
----なわけねーだろ、このバカ。

「構いたくなっちまうだろ?」
----俺のせいかよ。

「・・・恋次」
----1人で浸ってんじゃねえ!
耐え切れず、がばっと一護を引っぺがして、襟首を掴み上げる。

「ああもうわかったから! やりゃあいいんだろ、やりゃあ?!」
「んだよ、その言い方! もうちょっとムードとか出せねえのかよ?!」
「ムリだろっ、相手が悪いだろっ!!」
「俺のせいかよっ!」
「ったりめーだ、このヒスエロガキ!」
「んだと?!」

振り下ろされる包帯の拳をすいと横に避けたら、その腕はぐいと俺に巻きつき、そのまま抱きしめられた。
状況がつかめない俺の耳に、
「恋次。顔、真っ赤だから」
と一護が笑い含みに囁いた。
だけど、それだってやけに熱い吐息混じり。

「・・・テメー見てると恥ずかしくなんだよ、このエロガキ」
と返してはみたけど、やっぱり子供は直情で、
「仕様がねーだろ、テメーが脱いだりするからよ」
と包帯だらけの手で触れてくる。
そういえばそうだっけと下を見れば、シャツはすっかりはだけて半裸。

「・・・やっぱ俺のせいかよ」
と呟くと、
「ようやくわかったか。全部テメーのせいだ、このバカエロ死神。責任取りやがれ」
と一護が笑った。





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