「珍獣の飼い方10の基本」 (配布元 リライト)


だっそうにきをつけましょう

 

直後に、夜中に、朝日の射す頃に

あっさり恋次は消えることがある。
俺は余韻だって楽しみたいし、目が覚めたときの温もりとかそういうの、いつだって大事にしてる。
だから恋次がいつの間にかいなくなっちまってたら、がっかりするし、悲しくなったりもするし、
最初から期待しないなんてそんな高等な技、挑戦する気もねえし、
今が、今までがどうであっても、次の瞬間にも恋次にここに居て欲しいって思ってるし。

それなのに

俺が名前を呼ぶたびに、眉をひそめてしかめっ面をする。
頬を両掌で包んで口付けると、視線を逸らす。
強く抱きしめると、体を反らして逃げようとする。
だから俺は焦って、追い詰めて、この手にしっかり捕えるんだ。
恋次だって最後は諦めたフリして俺の腕の中におさまってくるんだ。
だから俺は安心して眠る。

そしたら隙をみて逃げ出しやがるんだ

恋次が消える直前のこの空気。
きつく張りつめ、部屋を満たし、水よりも濃く纏わりつく。
重くて冷たくて、俺は身動きさえ出来ない。
軽く閉じているだけの瞼も、体の横に置いているだけの手も動きゃしない。
まるで深い深い海の底。

開けよ、俺の目。
動けよ、俺の手。
恋次の顔が見たいんだ。
恋次の頬に触れたいんだ。
でも、俺の足掻きは成功した試しがない。

熱い空気の塊が俺の頬を撫でる。
それが消える合図。
腕をつかんで引き止めたくても、
頬に触れるその熱に蕩けちまいそうになって、朦朧として、
正気を取り戻す頃にはもう恋次はいない。

また、逃げられた

朝日が明るく照らしてきても、あの熱は戻ってきやしない。
でも記憶は鮮明、逃しきっちゃいない。
だから俺は、次の捕獲の機会を狙って窓の外を睨みつける。

虎視眈々と、今日も



「かわったものにきょうみをもちます」恋次側>>

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