「珍獣の飼い方10の基本」 (配布元 リライト)


とてもきちょうで、めったにてにはいりません

 

「ホラ食え」

顔を見るなり、まるでエサって感じで一護が袋を投げて寄越した。
素っ気ない紙袋の中には甘味がぎっしり。
昼飯抜きだったし、仕事帰りで疲れがたまってるし、そんなところへ突然の甘味攻撃。
ごくり、とつい唾を飲み込んじまった。
やべぇ見られたか聞かれたかと思って一護を見ると、無関心って感じで窓の外眺めてる。
でも口元が緩んでるし、肩も少し震えてるし。

・・・・・なんかスッゲー屈辱。
でもここはオトナの余裕だ、死神だってメシ食うんだ、
罠に引っかかるんじゃねーぞ俺、と自分に言い聞かせて素知らぬふりを続ける。

でも、あれ? なんかこれ、いつものより旨くねえか?
包装なんかもものすごく凝ってるし、いつものプラスチックじゃねえぞ?
てなるとアレか? このぐちゃぐちゃの紙袋もワザとか?

ああもうコイツはこういうストレートを食らわせるからっ

ぶちっと何かがキレる音がした、もうダメだ。
今日こそケンカしないとかオトナの余裕とかそういう心構えでいたはずなのに、
一護の振る舞い、言葉遣い、視線、そんなもの全部がカンに触ってくる。
この訳の分からないイライラはきっと、ワザとらしい甘味にやられて胸焼けしたせいだ。
無性に腹が立つ。

いっそ帰ろうかとも思ったけど、売り言葉に買い言葉で結局屋根の上。
吸いたくもない煙草をふかして寝転がり、煙が青空に溶けていくのを眺める。
目を閉じると、世界が赤く色を変えた。
俺からは見えない、俺の色。
生命の通わない血の色。
腕で目を覆うと世界が暗転した。

 

「・・・うえー甘苦ェ、最悪」

ペロリと唇に濡れた何かが触れたから、驚いて目を開けると、
一護が忌々しげな顔して口元に手をやってた。

「舐めんな!」
「じゃあ口ぐらい拭いとけよ」

慌てて袖で拭うと白い粉が黒い布地に付いた。

「・・・大体霊力あるヤツラに見られたらどうすんだよっ」
「屋根ん上だし見えねーよ。アイツラだって空、飛んでこねーだろ」

「飛んでくるやつもいるだろうがっ」
「構わねーだろ別に?」

チクショウああ言えばこう言う、こう言えばああ言う。
いつからコイツはこんな余裕たっぷりになっちまったんだよ、やってらんねー。

屋根の上に大の字に寝っ転がり、ため息堪えて見上げれば、霞がかった春の空に燕が弧を描く。
眩しくて手をかざそうとしたけど、すぐにオレンジ色の影に取って代わられた。
こうなったらもうヤケだと、まだ薄っぺらい肩に手を廻すと、

「今日の恋次、滅多にないぐらい素直で貴重」

と一護が笑った。
 


「かいぬしのへんかにびんかんです」一護側>>

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