「珍獣の飼い方10の基本」 (配布元 リライト)


かいぬしのへんかにびんかんです

 

「で、何をそんなに怒ってるんだ?」
ったりまえだろ、思いっきり噛み付きやがって。

「テメーが悪いんだろ」
知るかよ。

「大体テメー、調子に乗りすぎなんだよ」
悪いかよ。

「加減とか状況とか考えろよ、屋根の上ってなんの罰ゲームだよソレ」
関係ねーよ。

「それにテメーは・・・」
「うるせーよっ、説教ばっか垂れてんじゃねーこのクソ死神っ!」

屋根から戻って妙に狭く感じる部屋の中、俺の怒鳴り声が響いた。
体に戻ってるから俺の声、階下にまで響いてるかもしんないけど、
かまってらんねえ、押さえ切れねえ。

恋次が驚いてる。紅い眼が泳いでる。
バカ面、晒しやがって。
そこ、驚くとこじゃねーだろ、怒鳴り返すとこだろ!

「わかった、悪かった」

でも恋次は冷静な面して謝ってきやがった。
そんで俯いて頭を掻く。
なんだよ、その他人行儀な態度。

頭ん中で危険信号が明滅する。

ダメだ。こんなんじゃ恋次、絶対、止める。
今までの全部、無理とか意地とかそういうの全部纏めて放り出して、止める。
なんとかしなきゃ、引き止めなきゃ。

でも、恋次が俯いたまま笑ったのが見えた。

テメー、俺のことバカにしてんのかよ
それとも狙ってたのかよ
怒らせてキッカケつくって、そんで終わりにしたかったのかよ

胸がずきりと痛んで、頭からすっと血が引いた

 

「帰れ」

意図して言ったわけじゃない。
でもずっと胸につかえてた言葉が、込み上げる感情に押し出されて転がり出た。

恋次の反応がない。

「帰れよ」

ああ、この言葉だ。
俺はずっと帰れって恋次に言いたかったんだ。
いつもいつも逃げ出す恋次を追っかけてた、引き止めてた。
だからもう帰れって、無理すんな、戻れよって言ってやりたかったんだ、本当は。
やっと言えた。

でも、

「帰っていいから」

そう呟いた俺の声は呆れるぐらい小さかった。
 


「おこらせるとおもわぬはんげきをうけます」恋次側>>

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