「…今、何時だ?」
「っと…、うわ、やべェ、もう来るッ」
「とにかく早く服着ろッ!!!」
「っせえ、俺は下、穿くだけだから大丈夫! つかテメエだ、髪もあんだろ、とにかく早くッ!!!」

雁首揃えて覗き込んでた伝令神機を放り投げ、慌てて袴だのなんだのをかき寄せ、ものっすごい勢いで身につける。

「クソ…、紐がぐちゃぐちゃだ…ッ」
「こんのヘタクソっ、いつになったらまともに脱ぎ着できんだテメエは!」
「あ、恋次、早えっ…。つか仕様がねえだろッ、こっちじゃ着物とか着ねえんだからよッ」
「だからテメエいっつも下だけ半端に脱いでんのか、楽しようっていう魂胆か、あァ?!」
「いや、それはちょっと別って言うか、考えるより先に動いちまうっつーか…」
「んだとコラ、何ブツブツ言ってやがる。聞こえねえぞ!!」
「っせぇッ! テメエが抑えねえからいけねえんだろッ! 少しは自制しろッ」
「自制?! 俺が何を自制すんだッ、そりゃテメエだろッ」
「つかテメエ、いっつも駄々漏れじゃねえかッ! 大人なら大人らしくもうちょっと高校生の気持を慮るとか…」
「煩せェ、黙って紐、結びなおせ、このバカっ! つかテメエもう、人間の体にそんまま入れッ」
「バカはテメエだッ、このまま入ったら次、出たとき、どーなんだコラっ」
「俺の知ったことかッ、せいぜい変質者扱いされろ、この万年発情期ッ!!」
「んだと、そりゃあテメエだろ、この…」

カラリ。

「おお、二人とも揃っていたか」
「ルキアッ…!」
「ルキア!」
「なんだ貴様ら、また喧嘩しておったのか」

窓枠に足を掛けた死覇装姿のルキアはいつも通りで、何も気付いてる様子は、無い。
俺と恋次は素早く、互いを上から下までチェックした。
よし、大丈夫だ。
間に合った。

「…別に喧嘩なんかしてねえよ」

つか、滅多に無いぐらい、すっげーいいムードだったんだよ!
テメエが来なきゃ、今頃はなあ…!

だがルキアは、俺の内心の複雑さなどそっちのけで、「何を言う。胸倉を掴み合っているのが喧嘩でなければ何と言うのだ」とふんぞり返った。
俺はガクリと首を垂れた。

「…つかよー、ルキア。テメーはいつも連絡してから来るまでの時間が短けーんだよ」
「貴様にどうこう言われる筋合いはない」
「んだとコラ!」
「そもそも私は恋次を迎えに来たのだ。貴様には関係ないだろう」

関係ねえことはねえよッ!
思いっきり邪魔しやがって…ッ!!
つか今、何て言った?
恋次を迎えに?

俺も驚いたが、案の定、恋次も反応してた。

「俺を迎えにってどういうことだ、ルキア」

ルキアが恋次を迎えに来るなんて、そんなの初めてだ。
何があったんだ?!

「ああ、そうだ。兄様にも許可を頂いている」
「隊長に? 何か急務か?!」

恋次の顔色が変わった。
あー、こりゃもうこのまま今日は行っちまうな。
なんだかんだで仕事一番のヤツだからな。

「そうだ。貴様には今すぐ、尸魂界に戻ってもらう。時間がない」

ルキアは大仰に頷いた。
恋次も同じように頷いた。
うーん、俺も頷くべきか?

「分かった。オイ、一護。そういう訳だから」
「あ? ああ。つかルキア、恋次だけで大丈夫なのか? 何かあったのか? なら俺も…」
「あ、いや、事件などではない。ただ大事な行事なのだ」
「行事?」
「は…? 行事? んだそりゃ、俺ァ聞いてねえぞ?!」

あ、恋次の顔つきが変わった。
緊張感が一気に薄れて、もう腰が引けてきてる。
こりゃ、アレだな。学習効果ってやつ。

「当たり前だ。試行を正式決定したのが朝方だからな」
「正式決定って…」
「つか一体何の行事だよ?」
「はろいーんだ」
「は…? はろいん?」

二人とも発音、悪すぎだろ。
Halloweenだから、”いーん”じゃなくて、”うぃん”だろ。
つか! 俺も、そんなとこツッコんでる場合じゃねえ!

「おい、ルキア!」
「なんだ、貴様、まだ居たのか」
「居たのか、じゃねえ! ここは俺の部屋だ!」
「そうであったな。この狭さも久々で忘れておったわ」
「狭くて悪かったなッ」
「構わぬ。慣れれば何とかなるものだ」
「そりゃよかった…、じゃねえ! テメエに気ィ使って言ってんじゃねえよッ」

だがルキアはケロリとしている。
恋次は恋次で、はろいんって何だと頭をひねってる。 役に立たねえ。
…ダメだ。コイツら、なんかすごくダメだ。

俺はガクリと肩を落とした。

「くそ。テメエ…、だんだん白哉に似てきたんじゃねえか?」

何気なし、というよりは、かなり毒を含めたつもりで吐いた言葉だが、
ルキアはポッと頬を赤くした。

「え…。そ、そんな、私などが、白哉兄様に似ているなどと怖れ多い…ッ」

…は?
なんだそれ、喜ぶとこか?!

「…ルキア、それ、褒められてねーから」
「そーだそーだ」

だがルキアは、コホコホと咳払いして、あらぬ方向など見て、恋次のツッコミにも俺の相槌にも全く関知しない。
俺はなんて言っていいのか分からず、がっぱり口を開けた。
でもって横を見上げると、恋次は、
「と、とにかく、だ。ルキア、俺、はろいんに何の関係があるんだ?」
と話を戻した。するとルキアは、
「そこなのだ」
と、いつもの表情に戻った。

さすが恋次。
俺は感心した。
切り替えが早い。
ルキアとの付き合い、年季が入ってるだけはある。
つかある意味、器がデカいのかもしれない。
これがいつも恋次が主張する、副隊長たる所以ってやつか。

「さっき、言ったであろう。はろいーんなのだ」
「い、いや、だから! はろいんがどうして俺なんだ?!」

恋次の疑問も最もだ。
だがルキアは鼻で笑った。

「何も貴様ごときが主役を務めるわけではない。だが貴様も面白眉毛とはいえ仮にも副隊長。それなりに勘違いしているものもいるという。ならば一肌脱いでもらおうではないか、ということで、意見が一致したのだ」
「だ、だから?!」

うん、わかるぞ、恋次。
オマエの叫びたくなる気持はよく分かる。
ルキアが言いたいことはいつものことながらさっぱり分からねえ。
つかオマエ今、ひでえこと言われてなかったか? 気になんねえのか?!

「話は最後まで聞け、恋次。短気なのは貴様の短所だぞ」
「…ッ!!」

いや、恋次。
むしろルキアについていける奴のほうが少ねえから安心しろ。

「つまりだ。そういうわけで貴様には、ふらんけんしゅたいんとやらを務めてもらうことになった。脱げ」
「は…?」
「脱げ、と言ったのだ」
「え…?!」

今度は恋次もがっぱり口を開けた。
つか俺も一瞬、反応できなかった。
その隙をルキアが見逃すわけも無い。

「ふらんけんしゅたいんというのはな、つぎはぎな大柄の男なのだ。だから貴様の入墨にちょちょいと手を加えればちょうどいいということで、意見が一致してな」

ルキアは淡々と手を伸ばし、恋次の襟元を取った。
そして思いっきりがばーっと左右に開いた。

「うわーッ、ちょッ、待て待て待て待てッ…!!!」
「…なんだ一護、いきなり叫ぶな。耳が痛いではないか」

いや、だってそこには山ほどのキスマークが…!

俺のことを訝しげに睨みつけてくるルキアの手元は、がっぱりと恋次の胸元を肌蹴てる。
そこには俺のつけた赤い跡が、入墨の間に点々とついている。
今まで気付いてなかった恋次も、俺の顔を見て自分の身体を確認し、声にならない叫びを上げている。

俺は叫びたくなった。
もしここで、ルキアがまた暴走してくれたなら俺は神の存在さえ信じるようになるかもしれない、とまで思った。
それほど絶対絶命だった。
ものっすごい勢いでノウミソが回転しだした。


→ミイラ男だよ3


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