クリスマスがやってくる


「よっしゃあ、捕まえたッ!!」
「うわあっ、離せ、このバカ一護ッ!!」
「絶対離すもんか、覚悟しろよテメエ…ッ!」

泣いて謝るまで離さねえぞ、チクショウ!

けど、なんだかすごく負けてる気がする。
床に仰向けに倒れた恋次に馬乗りになって、
手首まで押さえつけてる絶対優位な体勢なのに、
…なんでだ?
つか 恋次だって、
「マジかよ、オイ止めろって」
って口では言ってるけど、全然、本気で抵抗してきてない。
思いっきり眼が笑ってるぜ。
…なんでだ?

「う…。このクソッタレ恋次…ッ!! 止めるわけ無えだろ!!」

クソ、舐めやがって。
絶対、負けるもんか!
さっきの仕返しだ。
キッチリ落とし前、つけてやる!



両手首を押さえつけたまま、Tシャツを噛んでめくり上げ、
そのままうんと上の方に引っ張り上げると、上半身が露になった。
義骸の癖にキッチリ墨を入れた胸から腹にかけてが、視界いっぱいに広がる。

俺は 思わず息を飲んだ。
だって一ヶ月もの間、会ってなかったとはいえ、
なんか知らないヤツの身体みたいに見えたからだ。
真夜中だからか?
蛍光灯の光のせいか?
いや、そうじゃねえ。
前より筋肉、すごくなってる気がする。
なんか厚さとかデコボコ具合とかも、違ってきてる気がする。
そういや肩幅なんかも…?



「どうした?」

恋次の声にハッと眼を上げると、
「やるんだったら寝床にしてくれよ?」
と、すっげーニヤニヤしてるツラで俺を見上げてきてた。
なんかいつもよりずっとふてぶてしい面構えのような気がする。

「そ、そんなんじゃねえよ!!」

んな年がら年中、発情するかってんだ!
もっと違うこと考えてたんだよっ、
身体、密着してるんだから分かんだろ、このエロ死神めッ!
つか大体テメエ、 自分の立場、分かってんのか?
そんな余裕、見せてる場合じゃねえだろ。
メディアで訓練されまくってる高校生の自制心、舐めんなよ。
すぐに後悔させてやる。覚悟しやがれ!



勢いに任せ、思いっきり息を吸い込み、
さっき、俺が恋次にやられたのと同じように、
今や緊張しまくって思いっきりへこんだ臍を目掛けて、唇を落とした。

だが。

「…?!」

なんかすげー硬い。なんだこれ?
恋次の身体ってこんな硬かったっけ?!

う…。構うものか!
とりあえず唇を腹にくっつけたまま、思いっきり息を噴出した。
思いっきり鳴りやがれ!!
だけど。

───── ぷふぅ。

力なく響いたのは、縦笛かみたいな間の抜けた音だった。
それを耳にした恋次は、にやりと笑った。

「どーした?」
「え…?」

何で何で何で?!
何で恋次が俺にしたときみたいに、ぶぶぶーって大きな音が鳴らないんだ?
何でこんなにマヌケで小さい音なんだ?

「意味無えって、止めとけ」
「んなこたねえッ…、もう一回ッ」

思いっきり。
それこそ最大肺活量を超えるぐらい息を吸い込んで、今度はみぞおちの辺りで息を噴出した。
だけどやっぱり、いい音なんかしない。
腹の皮がすっげー硬くって、 思いっきり吹いたってのに全然、びくともしない。
んだよ、これ!!
会ってなかった この一ヶ月で鍛え上げたのかよ?
つかコレ、義骸だろ?!

「…ああクソッ!!!」

ほんのついさっき、俺の腹でおんなじこと、恋次がしたときには、思いっきりぶっぶぶっぶ鳴ったていうのに!
つか何で恋次、こんなに平気な顔、してんだよ?
いつも、少し触っただけであんなに反応するじゃねーか!
腹の下の方とかわき腹とか、思いっきり弱えェじゃねえか。
すっげーくすぐったがって、仕舞いにゃ涙目になって逃げようとするじゃねえか!
あれ、全部、演技だったのかよ?!



段々、本気で腹が立ってきた。
大体、いつもだったらあんなふうに、
あからさまに待ちぼうけ食らいましたって様子で、
ベッドの端にもたれかかって眠り込むなんて醜態、オマエにだけは晒すはず無かったんだ。

──── だけど今日は特別な日だから。

先月、会えたとき、クリスマスイブには絶対来いってついワガママ零しちまったら、
仕様がねえな、遅れても知らねえぞって、笑いながらでも応えてくれた。
だから俺は今日、ずっとずっとオマエが来るの待ってたんだ。
緊張しすぎて、神経疲れで、もう宵の口にはヘトヘトだった。
だから眠ってしまった。
なのに起こされて一番に目にしたのは、テメエのニヤニヤ顔だった。
あろうことか俺の上に馬乗りになって、
Tシャツめくって、思いっきりブウブウ、俺の腹、鳴らすなんて、
一体、どういう再会だよ?!
こんなふうになって初めてのクリスマスだぞ?!
ちゃんと、大事な日だって教えたじゃねえか。
何、考えてんだよ、テメエ!


見下ろすと、恋次がニヤニヤと人の悪い笑みを顔中に浮かべてた。

「バーカ。コツがあんだよ!」
「コツ…?!」

んなもんにコツもヘッタクレもあるか!!
つかそもそもコツって何だ!
俺、今までされたこと、無かったぞ?!
今まで一体、誰としてきたんだ、誰とッ…!!!

「硬いとロクな音しねえぞ。テメエのみてえに柔らかくねえとよ?」
「やわ…!!」

そ、そりゃ、テメエほどじゃねえかもしんねえけどな?
俺だってかなり鍛え上げたほうだし、
もちろん腹に脂肪とかついてるワケねえし、柔らかいってことは絶対、無え!!
んなのテメエが一番、知ってるはずだろ!!

「腹出してバカみてえに大口開けて寝やがって。あまりの油断っぷりにコンかと思ったぜ」

コ、コン…?!
つまりアレか?
俺じゃなくて、コンだと思ったからあんなこと仕掛けてきたのか?!
コツってのはアレか?
俺の身体のクセはコン相手で覚えたってことか?!
…クソ、おかしいと思ったぜ。
テメエ、俺相手にあんなこと、したこと無かったよな。



→クリスマスがやってくる2

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