「…テメエ…ッ!」

今度の今度は、腹の底から声が出た。
さっきまでのニヤニヤを止めた恋次が、眉間の皺を深くした。
さすがに俺の不機嫌に気がついたらしい。

「…んだよ?」
「テメエ、コンだと思ってたのか」
「は…?」
「ああ確かにコンが俺の体、入ってるときは腹も出しっぱなしだし顔も揺るんでっからな!!
 いっつもこんなこと、やってたんだろ!」
「はぁ?! 一護、テメエ何か勘違いしてんじゃ…」
「悪かったな、コンじゃなくて!」
「いやだから違うって!!」
「違わねえッ!! 大体、いつもテメエはコンがいたら大喜びで弄くりまわしてるじゃねーかよ!」
「いやだからそれは面白いからであって…」
「ああそりゃー面白いだろうな! 俺のツラしたコンをおもちゃにすんのはよ?!」
「オイこら、俺の話を聞けッ!」
「っせえッ!!」

依怙地になってるのは、自分で分かってた。
けど止めようがなかった。
だって今日はクリスマスイブだぜ?
来れねえかもって思いながらも、いろいろ準備だってしてたんだ。
メシだって冷蔵庫にこっそり、恋次の分、確保してある。
プレゼントだってちゃんと準備してある。
すんげえ小っせえけど、しかも妹たちにガラでもねえって笑われたけど、
テメエが見てみてえっていったツリーだって机の上に飾ってあるんだぜ?
どうせテメエ、気がついちゃいねえだろ。

「一護、マジで誤解だって! 大体、俺がテメエの霊圧、間違えるわけねえだろ!」
「知るかッ」
「一護ッ!!」

恋次の眼がすごく本気になってる。
声だって焦ってる。
多分、俺の誤解を解こうとして。

そういうのって普段だったら絶対、すごく嬉しかったと思う。
俺の霊圧を間違えるわけ無いだなんて、
いつもの恋次なら絶対、口にしないような言葉もすごく嬉しかったと思う。

でも、なんかダメだ。
だってさっきオマエが押さえつけてきた腕、振り払えなかった。
必死で逃げようとしたのに、びくとも動かなかった。
なのにほら。
俺が本気で押さえつけてるオマエは、もう今にも俺の手から抜け出せそうだ。

「一護、離せって」
「いやだ」

オマエ、いつも本気出してなかったんだろ。
手加減して俺の相手してたんだろ。
感じたフリしてたんだろ。
全部、ウソだったんだろ。

「一護! 頼むから、俺を怒らせるな」
「…んだよ、その言い方! だったら勝手に逃げればいいだろッ!!」

そのバカ力じゃ俺を跳ね除けるぐらい屁でもねえだろ!

「そうじゃねえんだよ! 加減ができねえんだ。だからテメエが自分で退いてくれねえと…」
「んだよそれ! 加減って何だよっ?! 俺のこと、舐めてんのか、あァ?!」
「そうじゃねえって言ってんだろ、このクソガキッ!」
「ああガキで悪かったなッ! つかテメエみてえなジジィから見たら現世の奴ら、みんなガキだろッ!!」
「あああ、もう!! どうしてテメエはいつもいつもそうやって話をワケ分かんねー方向に持ってくんだッ」
「俺のせいかよ、全部?!」
「そうじゃねえっつってんだろッ。どうして分からねーんだッ!!」

恋次の目の色が変わった。
本気でアタマにキタらしい。そりゃこっちも同じだっての!
クソ。
俺がタダで負けてやると思うなよ?
テメエみてえな筋肉バカ、今日こそは徹底してブチ負かしてやる!!!

俺は、恋次の手首を解放した。
馬乗りになったまま顎を上げ、思いっきり恋次を見下した。
肘をついて半身を起こしかけた 恋次は、眉間の皺をいっそう深くした。

「来いよ。テメエのその思い上がり、叩きのめしてやるぜ」
「テメエ、一護…」

恋次が半眼になったのを機に、
口の端だけで笑ってみせた上で、くいと人差し指を曲げて見せた。

「来いよ」
「…んだと? 黙って聞いてりゃいい気になりやがって…」

恋次は肘をついて身体を起こし、俺を睨みつけてきた。
霊圧がうんと攻撃性を増す。
肌をチクチクと刺されてるみたいだ。

やっと本気で怒りやがったな?
眼の色、変えやがって。
ざまあみろってんだ。

…って、え?
つか例えじゃなくて、本当に眼の色、変えやがった!

「…れ、恋次?!」

んだよ、それ!
眼が光ってるぞ?!
赤いところがチカチカと点滅してるぞ?!

「オ、オイ…! 大丈夫かオマエ? 何か眼がヘンだぞ?!」
「あァ? ヘンで悪かったな。…今日こそ覚悟しろよ」
「いやだからそうじゃなくて! マジでヘンだってッ!!」

つか!
恋次の眼の奥のチカチカがどんどん速くなってきてる。
なんだよ、これ!
こんな恋次、知らねえぞ?!
も、もしかして恋次、虚に乗っ取られたのか?!
まさかそんなことが…?!
いや、気配を探ってもいつもの恋次の霊圧だけしか感じられない。
じゃあコレは一体…?!

「止めろ、れん…ッ」

その時、恋次の両目がカッと光った。
そこからヒュッと出た何かが頬を掠めたと思った瞬間、背後で、ドンッという音がした。

「え…?!」

振り向いてみたら、背後の壁の天井近いところに小さな穴が二つ開いてた。
しゅううと煙まで出てる。

「れ、恋次…、今のって…」
「あ…?」

恋次自身も何があったのか分かってない様子で、ボーゼンと壁の穴と俺の顔を見比べてる。

「俺、今、何を…?」
「テメエ、何やったか分かってねえのか? 今、光がオマエの眼からピカッて・・・!!」
「ま、マジでか?! そうか、これが…。つか大丈夫か一護ッ!? 血ィ出てるぞッ」
「…血?」

もう恋次の眼の光は消えてる。
ヒリっと痛む頬を思わず拭うと、手の甲に血が付いた。

「あああ、すまねえッ!! つかだから言っただろッ! 加減できねえってッ」
「いや、加減できる出来ねえの問題じゃねえだろッ?! んだよ今のッ!!」

襟首掴んで締め上げると、恋次はムッと口元を引き結んだ。

「なあ、今テメエ何した?! 何か眼から出しただろ?! アレも鬼道なのか?!」
「なわけねえだろッ!! どこの誰が眼から出すか、鬼道ッ!!」
「いや、分かんねえぞ、テメエならッ!」
「どういう意味だよチクショウッ。本気で赤火砲、お見舞いするぞこのヤロウッ!!」
「オウ、ちょうどクリスマスだしな? 真っ赤なお鼻のトナカイさん、再びってか? やってみやがれってんだ!!」
「んだとコラッ!!」

恋次の眼がまたキラリと光った。

「う…おッ? 恋次、止めろ! また眼が光り出したぞッ」
「んだとッ?! や、ヤベエッ」

恋次は慌てて目を両手で塞ぎ、
深呼吸、深呼吸と呟きながら息を大きく吸ったり吐いたりして、
すごく攻撃的になってた自分の霊圧を押さえに入った。

「…」

間違いない。
恋次の意思とは関係なく、霊圧と連動して勝手に発動してる。

「あのさ、恋次…」
「うおおッ!! もうヤメだ、ヤメッ!! やっぱこんな義骸はいらねえッ」
「義骸…?」
「オウ。テメエの代行証、寄越せ」
「は…?」
「脱ぐんだよ、この義骸! あークソ、何がクリスマスプレゼントだ! ただの試作品じゃねえかッ」
「し、試作品?! つかクリスマスプレゼント?」
「試作品なら試作品で、手引書寄越せっつーんだ!!」

恋次は俺の腰から奪い取った代行証を手に、すっくと立ち上がった。
その上に乗っかってた俺はバランスを崩し、床に転げ落ちた。
仁王立ちになった恋次がぺしっと自分の額に代行証を当てると、ドンっと音がして、恋次の魂が抜けた。
義骸は、力を失ってがくんと後ろに揺れたと思ったら、ずしんとすげえ音を立てて俺の直ぐ横に倒れ落ちてきた。

「うお…ッ、危ねえッての!」

つか何だよ、この音?!
いくらなんでも重すぎやしねえか?

慌てて避けてた俺の横に、見慣れた死神姿の恋次がしゃがみこんだ。
なんだか横顔をみたら、ほっとした。
だって、さっきまでのへんな笑い方が消えてる。
だが恋次はそんな俺の気持ちなんか気がつかず、自分の義骸を突きながら話し出した。


→クリスマスがやってくる3

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