「あー…、遅くなって悪かったな、今日は。
現世に来るっつったらよ。浦原さんとこに山本総隊長からの届け物があるって持って来させられたんだよ」
そっか。
そうだったのか。
「で、浦原商店に行ったら、浦原さん本人が出てきやがってよ。
”ちょうどよかった、阿散井さんと黒崎さんにお揃いでクリスマスプレゼントですよー”
とか何とか、例の調子でべらっべら喋りだしてよ。
まあでも面白そうだからって試しに使ってみりゃこの有様だ」
「…ちょっと待て。浦原さん?」
つまるところ、
届け物して駄賃もらって喜んでもらってきたのか。
あの浦原さんから。
テメエのは子供のお遣いか、この単純バカッ!!!
「つか、お揃い?!」
「オウ。テメーのもあるぜ。ほら、ここ」
「うおッ?!」
恋次につられて覗き込んでみたベッドの下に、俺の身体がすっ転がっていた。
「う、うおっ…!! な、なんだこりゃ?」
「オマエ用の義骸」
「だから俺は人間だっての! 義骸とかいらねえ!!」
「んー、でもコレ、戦闘用に特化してあるみたいだし、それなりに使い道あるんじゃねえか?」
「戦闘用?!」
とりあえず引っ張り出してみたが、何か違和感が拭えない。
死神化したときに自分の身体、何回も目にしちゃいるが、
コレは義骸だからかな。やっぱ何か違って感じるもんなのか?
「う…。なんか気持ち悪りィ…」
「そりゃそーだろ。微妙に違うからな」
「違う?」
あの完ぺき主義者の浦原さんが?
「大まかには合ってるし、特徴も掴んでるんだけどな。
いろいろ機能をつけるためにまだ完全コピーとはいかねえんだってよ。
だから微妙にズレててな。ほら。俺のは何か目のところとかちょっと出っ張っててヘンだろ?
きっと奥のほうにヘンな装置、埋め込んであるんだぜ?
入っててもよー。何か神経適合性が低いっつーか、雑音が入るつーか。
それに何かほら、模型っぽくねえ?」
「模型…」
そういやさっき触れた恋次の身体は、プラスチックか何かみたいに硬かった。
「なんかよー。ココ、本人と違って顔つきっつーか口元とかも妙にだらしなくねえ?」
恋次の横顔はすごく不満そうだった。
なんかそれが、ちゃんと恋次で、さっきまでの違和感満載の恋次じゃなくて、
俺はなんとなくほっとした挙句に、すごく嬉しくなった。
けど口をついて出てくるのはやっぱり憎まれ口なわけで。
「…性格の悪さ、出してもらったんじゃねえの?」
「んだとテメエ!」
「いてッ、殴るな短気男っ!!」
「っせえ。自業自得だ。つかコレさー。
まだ試作機以前の段階だと思うんだよな。入ってみたらすげえパワーでさ。
けどコントロールしづらいにも程がある! まあ虚戦用の戦闘能力があるらしいけどな?」
「虚戦用?!」
「そういうこと。抜けるヒマがないときとかに使えるっていう話。義魂弾に戦わせてもいいしよ」
…ちょっと待て。
義魂弾つったらアレか?
チャッピーとかか? あとはコンとか?
んなもん混ぜたら、さらに大混乱じゃねえか!!
こっち側の被害が大きくなるんじゃねえか?!
「見かけは唯の人間だけどな。浦原さん曰く、筋力とかだけじゃなくて秘密兵器なるものもいろいろ付属してるらしいぜ?」
「秘密兵器…」
「なんつってったかなあ。正義装甲スーパージャスティス義骸ミラクルバージョンなんとかカントカとか言ってたな」
「…よく覚えたな、それ」
つかオマエ。
騙されてるよ、それ。絶対。
「でも肝心のスーパーな内容は教えてもらえなくってよ。”ぜひ黒崎さんと一緒に試してみてください~"なんて言ってたなあ」
「…そりゃあオマエ…」
それ、俺とオマエが実験体だったってことだろうよ?
俺はなんだか頭痛がしてきた気がして、こめかみを押さえた。
浦原商店で吹き込まれたこと、そのまま鵜呑みにしてどうする!
何か裏があるに決まってんだろ!
もうちょっと疑えよ!
大体、
ルキアにあんなことした張本人だろうが!
絶対あのチビどもにもバカにされてるぞ!!
なんだか浦原商店での恋次の立ち居地が見えた気がして、思わず目頭が熱くなった。
白哉のことといい、浦原さんのことといい、コイツ、なんかカワイソウなヤツなのかもしれねえ。
こんなナリだし副隊長だし、分かりにくいかもしれないけど、
もしかしてコイツ、誰かの助けが必要なヤツなのかもしれない。
俺はじっと恋次の横顔を見た。
恋次は腕組みしたまま、自分の義骸をまだ突いてた。
「まあ戦闘能力はともかくよ。一応、人間に混じっても大丈夫レベルの義骸じゃあるみてえだよな」
ちらりと意味ありげな視線を俺に寄越した。
「テメエを騙せるんだったら、多少、見かけがアレでも実用には耐えるだろ」
「…もしかしてテメエ、バレるかどうか、俺で試したのか?」
にやり、と恋次は口元だけで笑った。
「ぜんっぜん気がつかねえんだもんなあ。いつもの義骸じゃねえって」
そして背後に横たわる戦闘用義骸を指差した。
確かにこうやって比べてみると、この義骸、恋次より一回り大きいし、なんか顔のひとつひとつのパーツも変だ。
細かいところはキッチリ人間なのに、材質とかのせいだろうか。
総体的には模型かなんかみたいに感じられる。
酷い違和感だ。
「なあ、一護。たった一ヶ月だってのに俺のこと、忘れてたんだろ?」
「い…、いや、気がついてたぞ! 俺は、いつもの恋次じゃ無えって気がついてた!」
「ほー…」
はっと眼を上げると、恋次はすっげえ見下した眼つきで俺を見てた。
「な…、なんだよその眼つき!!」
…そうだった。
コイツはこういうふてぶてしいヤツだった!
誰が助けが必要だ?! 前言撤回!
殺してもタダじゃ絶対死なねえような生命力がウリだろ、コイツはよ!
だから利用されても気がつかないってのは、コイツに限っては美徳だ!
「へー…」
「ウソじゃねえッ!! だっていつもより力があったし」
「そういやそうだったなー」
「つか全然、感度も悪かったし!」
「テメエ、そこかよッ!!」
「それに何より…」
「…んだよ?!」
…あの体勢と状況でも、全く勃たなかったって言ったら殴られるだろうか。
つか俺、頭より身体のほうがマシなんだろうか?
うう…。自分に自信が無くなってきたぜ。
「…んでもねえよ」
「んだよ、気持ち悪りィな!!」
「っせえ! つかこの義骸、二つとも返して来い!!」
「あ?! 勿体ねえじゃねえか! せっかくもらったもんをよ!」
「…オマエな。貧乏性もいい加減にしろよ? 相手、浦原さんだぞ?」
「う…」
「絶対、眼からレーザーとか怪力とかだけじゃなくて、なんか無駄なもんもついてるぞ?」
「う…」
「俺は絶対イヤだ。絶対使わねえ! モニターとかされてたら最悪だ!!」
「モ、モニター…?! そ、そうか。そこまで考えなかった」
恋次はショックを受けたらしく、ガクリと項垂れた。
つかなあ。
それぐらいで済めばまだマシと思え。
最悪、身体中のあちこちにいろんな仕掛けがされてるぞ?
いつどんな爆弾や光線が出てきてもおかしくねえんだぞ?
やってる最中にへんなもんがボコボコ出てきてみろ!
全部、盗聴とかされててみろ!
俺もオマエもいろんな意味でオシマイだぞ?!
オマエ、あの人の店に居候してたんだろ。
少しは学習しろっての!!
「いやさ。この頃、机仕事ばっかりだったからよー。
これだったら義骸のままでも少しは身体動かせると踏んできたんだが」
オマエ、そんなことで浦原さんの策略に乗るな。
つか今日、俺がわざわざオマエに来て欲しがった理由、忘れてんじゃねえ。
「しょうがねえ。死神のままでもいいや。外出ろ、一護。霊圧押さえりゃ何とかなるだろ」
「…あのなあ、恋次」
「ああ?」
「とりあえず、今日、クリスマスイブだから!」
「クリ…スマスイブ? あ、ああ、そうか。そうだったな」
案の定、忘れてやがったと、こめかみの血管がぴきっとなった。
だがここは全神経を投入して、自分を押さえ込む。
「…そう。そうなんだよ。イブなんだよ。間違っても義骸で戦争ごっこやってる日じゃねえっての!」
「んでだよ?! 俺ァ、ストレスってヤツで死にそうなんだぞ?!
今日、こっちに来るってんで休暇申請したら隊長のヤツ、すっげー仕事押し付けやがってよ!
腰は痛てェわ、指に筆だこ出来るわ、少しは可哀想とか思わねえのかよ?!」
「う…。そりゃあ気の毒だが、でも今日を逃したら俺たちはもっとかわいそうなことになる!」
「なんだそりゃ?!」
「…知ってるか、恋次」
俺はうんと声を潜めた。
「イブを一緒に祝えなかったカップルは、とんでもねー破局を迎えるんだぞ?」
「ま、マジでか?!」
「おう。マジも大マジ」
大嘘だけど、ほんとは。
「元々は日本のじゃねえ行事なんだけど、やたら多いんだよ。イブでダメになるカップルって」
これは本当。
ちゃんとイブを仕切れるのが男の度量ってもんだ。
ましてや相手が異国…、というか異世界のイキモノだと。
俺がじっと見つめると、恋次はふっと眼を逸らした。
「んな大層なもんだとは全然、知らなかったぜ…」
しかめっ面の横顔に、赤褐色の睫毛が揺れた。
→クリスマスがやってくる4
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