なんでこの人の手はいつも熱いくせに乾いているんだろう。
俺はそれが不思議でならなかった。
でも最近分かったんだ。
この人から俺に伝わるものがない。
俺からこの人に向かって流れていくものもない。
だから汗がいらないんだ。
乾いたままで繋がる体に、それ以上の意味なんてない。



DEAD END



「素朴な疑問なんだけど」

まただ。この人はいつもコトの最中に話し出す。

「なんでお前は俺に足を開くの」
「つーかなんでアンタは俺に突っ込むの」

俺の身体をゆっくりと揺すりながら、にやりと酷薄そうな口元が歪む。

「そりゃーお前の身体は出来がいいからな」

急に深く突かれて、不覚にもビクリと反応してしまう。
さっき一回イかされたばかりだから、身体が敏感すぎてやってらんねえ。
俺の反応を見て満足そうなセンパイを見ると、
ああそういえばコレはゲームだったんだよな、と思い出す。
どっちが主導権を取って溺れさせるかっていう雄同士の優勢順位決定ゲーム。
気持ちいいし、時間もつぶれるし、どっちが優勢かなんて最初から知れてるし。
だから結果じゃなくて過程を楽しむのも一手だと思う。

確かサルなんかもそういうのあるんだよな。
ヒトだけが快楽のためのセックスをするって、
だから人間は他の動物と一線を画すみたいなこと偉そうに書かれてるけど、それは嘘だ。
類人猿なんかだと、生殖も発情期も関係なく、ましてや年齢や性別も関係なく、
同性同士、子供同士でもコミュニケーション手段としてセックスするのがいるんだ。
同属で際限のない殺し合いする種もいるしな。
ヒトとカケラも変わりやしねえ。
目的と手段のすり替え。
そういうことだ。

「で、また恋次くんは上の空?」

覗き込んでくる眼。
うるせーなぁ。
せっかく気持ちよくアタマも身体も浸ってるんだから、放っとけよ。
アンタの方こそ好きなように自分勝手に、
頭の芯まで痺れるぐらいガンガンやりゃあいいだろ?
そのためにやってんだろ?
なのにすぐ構ってくる、うぜぇよアンタ。
現実に引き戻されるじゃねえか。

「しょーがねーじゃん、センパイ下手だから」
「・・・言うねぇ」

そんじゃ、と悠然とした態度でセンパイが俺の腰と足を掴む。
細めの指に信じらんないぐらいの力が入ったと思ったら、
片足を高く持ち上げられて繋がったままあっさり裏返された。
ほらアタマ下げろと後頭部を鷲掴みにされてシーツに押し付けられる。
腰が高く引き上げられて固定され、
突いたり引いたり廻したり、センパイが好きなように動き出した。
同時に前も掴むし、不意をついて奥のほうを抉ったりもするから、
上半身から力が抜けて、揺さぶられるまま布団と顔が擦れる。
涎と声が漏れ続けてもそれを制御できないのが、
この人とやってるときの俺らしくていいと思う。

ベッドの上でよかった。これが床だったらまた傷が開く。
傷が開くと血だらけになって、また洗濯物が増える。
それは面倒くさい。
痛みと快楽、ギリギリのところ、思考が逃走を始める。
だから思考はシャットオフして波にまかせる準備をする。
こっから先は身体の仕事だから、アタマの出る幕はどうせ無い。

ちゃんと真っ白になるかなあ、アタマん中。
じゃねえとこんなことしてる意味無ぇんだけどなぁ。

「ほら、マグロになってんじゃねえ、ちゃんとお前も動け」
「・・・やだね。怪我人は労われよ」
「なーにが怪我人だ、お前いっつも傷だらけだろうが」

そう言いながらもセンパイは何も俺に強要しない。
身体の反応を見ながら弄ってくるだけだ。
腫れてる腹の刺青はきれいに避ける。
昨夜の喧嘩の傷は抉ってくるくせに。

アンタの優しさはわかりにくいなぁ。
そういうの、甘やかすって言うんだぜ。
俺がそういうの気に入ってて、だから放したくないって思ってるの、
どうせアンタのことだ、気がついてんだろ?
そのままずっと甘やかしててくれればいいんだけど。
だったら別に何が伝わるとか伝わらないとかそういうの、どうでもいいんだけど。
ただこのまま揺すられて意識もなにもかもぶっ飛んで終われば言うことないんだけど。

布団に沈んだままの俺の上半身に重なるように、センパイが身体をくっつけてくる。
センパイはシャツ着たままで、背に触れる湿った布の感触が気持ちいい。
布団被ってるみたいだ。このまま寝たい。
でも両脇を掬われ、無理やり膝立ちにされた。

「サボってんじゃねえよ、自分の体重ぐらい支えろ」

もう膝どころか意識を引き止めるだけでも精一杯なんだよ、無理言うなよ。
前方に倒れそうになる俺の腰を引き寄せて、後ろからガンガンぶつけてくる。
俺なんか何回イったかわかんねーのに、なんでこの人はいつまでも持つんだろう。
無理な角度で突かれるから、皮も中も引きつって悲鳴をあげてる。
それなのに俺の身体は勝手にイっちまう。
もう痛いんだか気持ちいいんだか眠いんだか吐きそうなんだか、
いい加減ぐちゃぐちゃでわかんなくなってきた。

「・・・も、やめよ・・・うぜ?」

うまく呂律が廻らない。
声も出すぎて、喉もカラカラだ。もう出るもんも残ってねーし。

「なんで?」

余裕たっぷりで笑い含みの声が耳に吹き込まれて、過敏になった身体が痙攣する。
昨日の肩の傷をセンパイが噛んで瘡蓋を剥がして舐めるから、滲みて痛む。
触覚も痛覚も熱も快感も増幅されて脳に送り込まれてくるくせに、
ソレを処理する肝心の脳の方はぶっ飛んでるから、結局何がなんだかわかりゃしねえ。

「やり殺されたいんだろ? 付き合ってやるよ」

耳元で囁かれるその低音が恐ろしく真剣で、じゃあ預けてもいいかなと思う。

「・・・・よろしく」

それだけようやく伝えて俺は意識を手放した。




DEAD END 2>>

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