DEAD END 2



だるくて澱んだ睡眠から戻ると、もう暗くなっていた。
なんだ、生きてるじゃねえか。
また騙された。

今何時だ? 夕方か朝か、それとも翌日か。
布団に突っ伏したままゆっくり首を廻すと、窓際の黒い影が眼に入る。
夕焼けだか朝焼けだか赤黒く染まった空を背に、
来た時と同じ姿勢でセンパイが窓際に座ってた。

「センパイ、まだ居たんすか」
「・・・・・お前、大概失礼だよな」
「アンタ、ちゃんとイったの」
「・・・・・残念ながら相手が悪かった」
「この遅漏」

ガスッ。

いってえな、本当のこと言っただけじゃねえか。
わざわざ突っ走ってきて殴ることねえじゃねえか。
もしかして図星かよ。

センパイはそのままベッドの脇にしゃがみこみ、俺の脇に両腕と顎をついた。
そんで明後日の方向をみて呟く。

「なんか今のお前とやってもなぁ。後味がわるい」
「なんで」

それで俺はずいぶん救われてるというのに。

「さあな。先が無えからかな」
「そんなもの最初から無えだろ」

大体、先ってなんだ、先って。

「ああそうだな」

センパイは反対側を向いて床に座りなおした。
よっこいしょとベッドにもたれかかるのがジジくせえ。
ベッドから流れ落ちる俺の髪を肩越しに引っ張りながらダルそうに先輩が呟く。

「さっきの質問のつづきだけど、」

またかよ。散々やった後で話す気力なんて無ぇよ俺には。

「これって過干渉ってのとは違うよな」

知らねえよ。
第一、俺に聞くなよそんなこと。
つーかアンタの方が参ってんのかよ。俺の相手、そんなにキツイかよ。
黒いボサボサ髪の後頭部、白いシャツの下の骨ばった肩。
いつも見せないちょっと沈んだ空気が澱んでる。
あーこりゃヤバいな、結構キてんなと思ったから、一席ぶちまける。

「別に過干渉じゃないっしょ。
 一晩飲み明かすのと同じようなもんじゃねえの?
 つーか運動って感じ?」
 
それにアンタ上手いし、と冗談めかして付け加えると、
軽くなった雰囲気に明らかにほっとしたセンパイの横顔。
すまねえなぁ、こんなんに付きあわせて。
ちょっとだけ悪いと思う。

「アンタこそ一体何なんなの。何で俺んとこ来るの」
「俺か? さあなあ」

そういって明後日のほうを向く。
俺が本当に望むコトバは絶対出てこないのは知ってる。
けどそんな風に言い澱まれると期待しそうになって、正直困る。

「なんだかんだでお前、後輩だからかなあ」

ふーんと相槌を打つと、最近お前本当にやばいからな、と、
聞こえるか聞こえないかぐらいの呟き。
ああ、それが本音か。
もういい加減投げ出したいだろうに、最後の最後で踏み出せない。
先輩の責任ってやつ?
本当にアンタの優しさは分かりにくい。

大人ってのは複雑でやだね。
子供だったら、もういやだって自分に素直に逃げ出せるだろうに。
為りたくねえなぁ、大人になんか。


だからもう少し子供であることに甘んじて、俺は眠ることにした。
オイ、もう寝たのかよというセンパイの呟きが聞こえたような気がしたけど、
どうせ幻聴に決まってるから放っておくことにした。
今日はもうちょっといい夢が見られるかもしれない。
そう期待する自分が妙におかしかった。
あの子供の真っ直ぐな眼がまた脳裏を横切ったけど無かったことにして、
まるで電灯を消すように俺は意識を消した。
今日も一日が無事終わった。
そして明日は明日でまた始まる。





我執 >>

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