瞑目 3
その翌日、おはようと朝のアイサツがのん気に飛び交う中、
飛びついてきた啓吾に一蹴りいれて席に着くと、
手にしていたケータイを目敏く見つけた水色が近づいてきた。
「おはよー、一護。 あれ? 新しいケータイ?」
「・・・・いや、拾いモン」
うそじゃねーし。
「なんかすごく汚れてるね。壊れてないの」
「知らねー。画面出てるし大丈夫じゃねえ?」
「あ、プリクラついてる! 結構かわいいね、この子。男の方はアレだけど」
「水色さんのお眼鏡にかなったー! ッてことは漏れなく年上〜〜!」
「啓吾にはどっちにしても関係ないでしょ?」
「ひどーいっ!!」
お約束の大騒ぎになったので、席を離れて廊下へ向かう。
手の中には傷だらけになったケータイ。
昨日、恋次の住処をやっと後にできた俺に、白猿が持ってきた。
森の中で見つけたらしい、あの黒いヤツ、いや、ヒサギってやつのケータイ。
恋次のトモダチなんだから恋次に持って行けばいいのに。
つか俺は猿のパシリかよ。
しかしなあ・・・。
普通、こんなにオンナとくっついた名前入りプリクラ、携帯に張っとくか?
趣味悪ぃ。つかオンナ、いるのかよ。
じゃあ昨日の恋次とのアレは何なんだよ。
なんかムカつく。捨てるか、やっぱり。
「はーい、みんなー、教室入ってー。今日も楽しい1日が始まるよー。
おら、黒崎も入れ!」
「いてッ」
担任の越智さんがいつもの調子で近づいてきたのに気づかず、
窓際でぼーっとしてた俺は日誌で一発食らった。
と、その時、ヒサギのケータイが鳴りだした。
昨日と同じ、軽やかな流行の歌、女の歌声。
「おい、こら黒崎! それ、没収!」
「あー、これ、落としモンですー、つーことでちょっと便所!」
「あ、おい、待て、黒崎、こらーっ!」
廊下をエコーする越智さんの声を後に人気のないところを目指して走りつつ電話を取る。
「・・・モシモシ」
「あ、すみません。それ、俺のケータイです」
「知ってます、ヒサギさん。拾ったんですけど」
「あーそりゃあご親切にありがとうございますって、何で俺の名前知ってんの? オマエ、誰?」
こいつ、またオマエ誰とか言ってるし。
大概失礼じゃねえか?
「・・・・プリクラに名前書いてあるんで。で、このケータイどうすんだよ?」
「えーっと、そっち、どこだっけ」
「あ、電池切れそう。俺は空座町の・・・」
「じゃあ今日の5時、駅前の・・・・」
ブツッ。
「・・・ブツっておい、モシモシ? モシモシー? モーシモシッ!!」
・・・切れた。充電しとけよちゃんと。
つか壊れてなかったのか、このケータイ。
あの高さから投げられたモンだったし、てっきり壊れてたかと思ってたんだけど。
恋次のうちに届けといた方がいいのか迷って手元に置いてただけなんだけど。
ってかやっぱり俺って気が付かなかったか、ヒサギのヤロー。
わざわざ駅まで行かなきゃなんねーのかよ。
つかどこでどう会う気だよ、俺のほうからは分るけどな。
あのヘンな目立つ面の刺青。
・・・・あー、面倒クセエ。トンズラしよっかな。
◇
けれどやっぱり来てしまった駅前、夕方5時。
落し物は交番に、って言うだろ?
でもちょうど帰り道だし、家と同じ方向だし、
偶々こんな時間になっただけだし、
つかこんな言い訳、何やってんだよ俺!
昨日から何十回目になるか分らない自己ツッコミしてた俺の前をヒサギが通り過ぎていった。
よりによってオンナ連れ。
しかもケータイのプリクラのとは違うッぽいの。
つか俺に気がつかねえってのが信じらんねー。
コイツ、訳、わかんねぇ。
「オイ、ちょっと待てよヒサギ」
気がついたらオレはヒサギの前に立ちはだかっていた。
ほんと俺も、訳、わかんねぇ。
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