apparatus digestorius
「・・・お、来てたんだ。」
部屋に戻ると、久々の赤。
なんか色気も素っ気もない、直線的で色彩の無い俺の部屋によく映える。
というか、よく目立つ。
まーな。これだけ赤ければな。
つーか俺も大概目立つけど。
「よー、元気か一護。」
「おかげさんで。」
どさっとカバンを下ろす。
「んー? なんか重そうだな。 うまいもんでも入ってんのか?」
「・・・・入ってるか、バカ。教科書だ、教科書。」
今やってんのは生理学関係なんで、やたら重い。
一冊2kgとか超える。ついでに言えば、日本語でさえない。
なんで専門書ってこう、英語ばっかりなんだろ?
「オマエも好きだなぁ、ベンキョー?」
教科書の類をドサドサと机の上に空けると、恋次がのぞいてくる。
甘い匂い。
アンコ、付いてるから口の縁。
「へー、なんか大変そうだな。ま、楽しいっちゃ楽しいか。」
・・・そうか?
結構大変だけどな。イロイロと。
「で、何のベンキョー?」
・・・よくぞ聞いてくれました。
というか、聞いてくれ、その身で思い知ってくれ、
この俺の悩み苦しみ葛藤その他モロモロ。
がしっと恋次の両肩を掴む。
「今やってるのはな、生理学つってな。要するに身体の仕組みだ。」
俺の妙に力の入った握りに多少引きながらも、
ほほぅと一応は話を聞く気色。
「人間の身体ってのはそりゃまーうまく出来てて、互いに影響してされて。面白いわけよ。」
「・・・で、俺に何を訴えたいわけ? 俺、別に興味ないんだけど。」
言外に、肩離せと訴えてる。
でも、無視。
丸っきり無視。
こっからが本題だ。
「で、今日はな、消化器官だったわけ。
消化器官ってわかるか? 人間、メシ食って、出すわけよ。
その間に、メシ、小さくして溶かして酵素とかでどろどろにして栄養にして、要するに消化、な。
そーやって、オマエの食べた鯛焼きもな、オマエのエネルギーになってるわけよ。
わかる?」
はい、わかります、と恋次が殊勝にもうなずく。
やっぱり鯛焼き食ってたのかと、アンコをぬぐってやりながら続ける。
「でな、消化器官の入り口と出口ってわかる?」
ヘ?と間抜け顔。
「それに俺は今日、散々翻弄されてきたわけ。」
肩を掴む手に力が入る。
「・・・・それが何か。」
「大有りだろこのバカっ!
俺がどんだけ苦労したかと思ってんだっ!」
引く引く、ドン引き恋次。
・・・・話の流れ、つかめてきたみたいだな? 上等。
「もーさー、入り口のほうとかまだいいよ?
日常用語にもガンガン使われてるし、
唇がどう、舌がどうってさすがの俺もそれぐらいじゃー冷静だ。
でもな、もう出すほうとかな?
ラテン語とか英語とかで言われると大変なわけよ。わかる?
ただでさえ大変なところに、内視鏡写真とか見せられるわけよ、スライドで。
そりゃー、オマエのとかとちょっと違うけど基本がな?」
「つーか、まてこのボケ!
神聖なる医者になる授業受けてテメー、発情すんな!
俺をエサにすんな!!!」
「だってしょーがねーだろーがよー!!!
最近、会ってなかったし、大変なんだよ俺も。
きっと俺だけだぞ、クラス中であんなに葛藤してたの。
よっぽど便所駆け込もうかと思ったぐらいなんだ。
だから今日は付き合え、責任取れ!!」
引きつる恋次の口元。
「絶対いやだ!
何されっかわかんねーよ、このヘンタイ医者予備軍!
てめー辞めろ、今すぐ医者になるのヤメロ!
つーか俺が辞めさせる。世間様に申し訳がたたねー!!!」
オマエ、それ大概失礼。
「大丈夫。
俺、変態かもしんねーけど、恋次だけだから。
他の人に対してはものすごく淡白だから。つーか興味ないし。
オマエのにはソソラレルけど、他の人のはただの排泄器。
すっげー安全圏。」
恋次、逃げ腰及び腰。
「・・・・・テメー、変態って否定しないあたり、かなり自分をわかってきたな?」
「おうよ、まかせろ! だから食った分、ちゃんと運動しようぜ?」
後ずさるのに抱きつくと諦めたように恋次の動きが止まる。
「・・・イヤもうほんとに、オマエ辞めといたほうがいいぞ?
悪いこと言わないから、もっと真っ当な道歩け。な?
いっそ、機械とかな?」
ムカ。
誰のせいだ。
・・・・・俺のせいか。
「わかった。 じゃ、やってから考える。」
うおおお、やめろーと抵抗する恋次の意思は丸無視。
教科書片手に実習に励む、真面目学生のストレス解消。
スマン、実験体。
医学の発展には犠牲が必要なもんなんだ。
八雲八重垣>>
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