※エロギャグです。苦手な方は回れ右!



極東エデン


 
「・・・またカレーかよ」
「しょーがねーだろ! 一人暮らし学生の定番なんだよっ。思いっきり甘口につくったから文句言わずに食え!」
「へぇへぇ」

腕に寄りをかけてつくった晩飯は、献立選択の段階で恋次には不評。
その原因はこいつだ。
横にちょこんと鎮座まします大猿、狒々丸。
猿はカレー食わねぇからな。
恋次のこった。どうせ猿と同じメシ、同じ皿から食おうとでも思ってたんだろ。
やなこったい。なんで猿なんか、つーか狒々丸なんかと!!
絶対やーだーねー!! 猿は猿らしく、一頭?一匹? とにかく孤独に猿メシ食ってろ!

「オイ、何ぶーたれてんだ。ちゃんと食ってるぞ、俺」
「・・・・うまいか?」
「おお、結構いける。てめーのメシ、カレーだけは食えるな」

つーか、普通の料理はソコまで甘くしないもんなんだよ。この激甘党め。
あー気持ち悪い。
自分の分はごっそりスパイスを入れまくる。ああ、美味い。この口中が痺れる感じがたまらない。
うっとりしていると、恋次と狒々丸が冷たい視線を送ってくる。
ちょっとやめろよな! その二人一組っつーか、一人と一匹でタッグ組むの!
俺一人で仲間はずれってソレなんか、カテゴリー分け違うだろ!!

「さてっと。ご馳走さんでした」

あっさりと食卓を離れる恋次。
てめー、遠路はるばる来た恋人に向かってちょっと今日、冷たすぎやしないか?
台所に皿を片す恋次の後を狒々丸はのっそりとついていく。
一人食卓で激辛カレーを食す俺。なんか悲しくねぇ?

「なー恋次。なんでこの猿、今日泊まりに来てるんだ?」
「猿って言うな。狒々丸って名前呼べって言ってるだろ」

茶と果物を手に台所から戻ってきた恋次は語気荒く言い捨てた。
そんな怒んなくていいじゃーねーかよ。
恋次がどっかと畳の上に座ると、その横に狒々丸も座り、茶と果物を分けて食う。
俺の分はどーなってんだ?

「コイツは俺が育てたんだよ。人間の言葉だってわかるんだ。なー、狒々丸?」

そういって狒々丸の首っ玉にしがみつく紅い頭。それに応える狒々丸。
今度は本気で狒々丸、歯ぁ剥き出して笑ってる。
ちくしょうめ! 認めたくないが、完全に負けてる。

「大体なんで飼育係なんかなったんだよ。テメーだったら就職先、選び放題だったじゃねーか!」

言いたかないが成績優秀。派手な見掛けの割りに受けも良く、ある程度階級社会に適応できる恋次。
俺より出世、しやすかっただろうに。

「さーなぁ。性に合ってたからだろー」

まただ。この話題になるといつも口が重くなる。
付き合い長いけど、なかなか見せてくれない部分も多くて、正直、俺じゃ頼りねーのかなって不安になる。
ま、こんだけ年下だと仕様がないけどな。いくら身長体重追いついてきたって、埋めようのない年の差。
しかも俺、まだまだガクセー。
どーしろっつーのよ。

「来い、狒々丸」

恋次が狒々丸を連れて二階へ上がっていった。階段を上がる音が家中に響く。
呆れられたかなぁ。無理やり来るんじゃなかった。いつも事前に連絡しろって言われてんのに。
よりによって狒々丸と鉢合わせした上、俺の方がプライオリティ低いっつーのも気にくわねぇ。
つーか、拗ねてる自分が気にくわねぇ。
あー、ガキくさっ。
どさっと畳の上に転がる。天井を仰ぐと、古い材木。飴色に鈍く光ってる。
釣り下がった電気の周り、小さな羽虫がぶんぶん飛んでる。
眼を閉じて聴こえるのは虫の声、葉ずれの音ぐらいだ。
こんな静かなところでアイツ、どうやって過ごしているんだろう。
テレビもラジオもない家。
何を考えて、何を感じて、この沈黙の中、一人で暮らしているんだろう。
その様子を思うと、なんか切なくなってきた。
最近どんどん口数、減ってきたよなぁ。
俺、一緒にいてやったほうがいいのかなぁ。





「カレー臭ぇし、辛ぇ」

口に温かいものが触れたと思ったら、恋次の不機嫌な声。
どれぐらい時間が立ったんだろう。眠り込んでいたみたいだ。
眼を開けると、覗き込んでくる恋次の顔は上下逆さま。
いつの間にか電気は消えてて、差し込むのは月明かり。
淡い光を受ける恋次の顔は相変わらずキレイだなーなんて暢気なこと思う。
そっと両手でその頬を包んで引き寄せる。口付ける寸前、恋次が囁いた。

「狒々丸、寝かしてきたから」

だから安心して、深く口唇をあわせる。でも舌を絡ませると、恋次が逃げようとした。
まだ辛いのかな?恋次のは甘すぎるんだけどな。
混ぜりゃあ丁度いーだろ。恋次の後頭部を掴んでもっと強く引き寄せる。
上下左右、逆さまでするキスは、勝手が違ってパズルのようだ。
すっかり覚えこんだ手順がチャラになっちまうから、15の童貞のときみたいにいちいち頭で考えないといけない。
それがちょっと懐かしい感じで、でもあのときより遥かに余裕があって。
街のど真ん中にある俺んちだと聞こえないぐらいの微かな水音、合間に漏れる吐息が耳に木霊する。

静か過ぎて、世界に誰もいないみたいだ。
俺と恋次の二人っきり。
まるでエデンの園、地上最後の楽園。
こんなところに在ったなんて。

眼を開けるとそこには恋次の喉。時々唾液を飲み下してごくりと蠢く。
そろりと指先で触れると、微かに仰け反った。そのまま喉から鎖骨へ指を滑らせ、くぼみを軽く押してみる。
この指の下は皮一枚隔てたら肺で、無数の小胞の中には今、俺から出て行った空気が溜まっているはず。
その空気は、恋次の体中を血流に乗って廻るんだ。
キスで混ざり合うのなんて、唾液だけじゃない。血だって混ざっちまうんだ。
そう思うととんでもないことしてるような気になる。失楽園も近い。

それでも欲望には歯止めが利かなくて、指は勝手に進んでいく。
浴衣の合わせ目、手をさし入れると僅かに硬くなっている胸の先が指に触れる。
感じてるのが俺だけじゃないって知るのは、何度経験しても痺れるような感覚で、
居ても立ってもいられなくて、手を浴衣から引き抜き体勢を入れ替える。
どさっと音を立てて恋次の身体が畳の上に落ちて、肺からひゅっと空気が押し出されたのが聞こえた。
そんな小さな音にさえ煽られる。間髪いれずに覆いかぶさり、先刻までの穏やかな時間を否定するように、口唇を貪る。
恋次もさっきまでの冷たい態度がウソみたいに夢中で応えてくれるから、熱はますます煽られる。

止められない。
こればっかりは、静かでも煩くても関係ない。どうせ何も聞こえなくなるから構やしないんだ。

長い口付けで渇きが少し癒されたから、一旦身体を起す。
恋次が髪紐を解いた。
頭と上半身を少し浮かして頭を左右に軽く振り、うなじに両手を入れて髪を思いっきりかき上げると、
畳に擦れる音が高く響き、放射状に深紅の髪が広がった。
日中は逸らしがちの、強い光を宿すその瞳。月光の下、俺を見つめて蟲惑的に輝く。
微かに開いた唇の間、白い歯列の奥。暗闇の中、ぬらりと光る舌が誘っている。

焦るな、がっつくな。もうオトナなんだ、俺は。

むしゃぶりつきたいのをぐっと押さえて、身体を起したままゆっくりと恋次の浴衣の合わせを開く。
均整な筋肉を覆う月色の肌と、闇を映す刺青が姿を現す。唇と舌で刺青の縁を辿ると、恋次の身体が僅かに緊張する。
あんまり切ない音を立てて息が漏れるから、それを妨げに身体の中心を舐めて遡る。
ようやく辿りついた顎を軽く噛んで、また口唇に戻った。

アダムとイブって何でエデンの園を追放されたんだっけ?
でもそれでよかったんだ、きっと。人間なんて、楽園で清く美しく生きてられるようなイキモノじゃない。
壊れた本能に従って生きる獣、ただのHomo sapiens sapiens。
その本能を解放すべく、俺は恋次の身体を犯していく。
薄い唇を食むと恋次の舌が滑り出てきたから、その舌に吸い付く。足は絡めながら、膝の間に割りいれる。
手を下肢に伸ばしてみたら、俺と同じぐらい熱くなってるのがわかったから自分のを擦りつけた。
逸らされた喉、熱い息の塊が吐き出される。

口付けを更に深くして、今度は本格的に手を伸ばす。木綿の生地の下、硬くなったそれに触れる。
途端、恋次が強く反応して何か言おうとする。でも反抗は認めない。
抗ってくる腕を押さえつけ、舌を強く吸って、恋次のを握りこむ。
なんかいつもより大きくなってるような気がする。なんだ、恋次だって感じてるんじゃねーか。
ほくそえむ自分を宥めながら、緩々と上下に手を動かし出すと、恋次がますます声を上げようとする。
いつもより反応が強い。感じてるんだ。

と、少なくともそう思った。
でも徹底的に俺を裏切る何か。
な、長い。それに動いてる!
なんだこりゃ?!

「うっぎゃぁぁーーー!」

目の前に、いや、恋次の顔を庇うようにして出現したのは白い、そして明らかに恋次のソレではないもの。
いつの間にか恋次のと入れ替わり、裂けた口を大きく開けてシャーっと俺を威嚇する白い蛇。

「テ、テメーっ!!出たな、蛇々丸!!」

こんなもんに触っちまったのかよ俺は!!
手を慌てて拭う。
俺の叫び声に目を開けた恋次は、ちらっと俺に一瞥をくれた後ダルそうに、
「・・・よぉ、蛇々丸」
と、蛇を二の腕に絡ませた。

違うだろ、ソレ!
ソコ、俺のポジションだろ?!
感じまくってる恋次、一番おいしいとこ持って行きやがってこの蛇!
ずるずると恋次の腕に巻きつく蛇のチロチロと蠢く赤い舌。笑っているように見えるのは気のせいか?

「・・・テメーは俺と蛇々丸の区別もつかねーのかよ」

かなり冷たい恋次の視線。
蛇に絡まれたまま浴衣を整え、背を向けて寝に入る恋次を横目に俺は誓った。
イブが知恵の実を食べてしまったのも、俺がエデン圏外に追い出されたのも、
全部、人類の敵・蛇のせいだ!
見つけ次第、蒲焼にして食ってやる、待っとけ、この蛇!!!



meaningful>>

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