routine
門を出たところで、恋次を見つけた。
待ち合わせてるときにはいつも門のところに立っているくせに、
今日は何故か、ガードレールに腰掛けている。
目印代わりの髪が全部帽子に収められていて、
しかも明後日の方向を見たままだから見逃すところだった。
でも気付かないわけが無くて。
そばに行っても気がつかないみたいなんで、声を掛けてみる。
「オイ。なにしてんだ、こんなところで」
一拍おいて、こちらに向けられたのは思わぬ笑顔。
近くに来たからちょっと会いに来た、なんて嘘っぱちもいいとこ。
何やってんだ、何があったんだ。
訊いても素直に応えるわけでもなし、そこはそれ。
何も訊かない、何も求めない。
言葉も無く歩く。狭い歩道、一列になったり横に並んだり。
恋次が先でも俺が先でも構やしない。
どうせ道なりに歩くだけのこと。
そして駅につく。
恋次は切符を買って、俺は定期を出して、いつもの電車に乗る。
繰り返しすぎて擦り切れた日常。
俺達は男同士だし、しかも意地っ張り同士で、どうしようもなく似ているくせに、どこか水と油のように相容れない。
その違和感が心地よかったり、でもかえって居たたまれなくなったり。
そういうズレを無理して埋めようとは思わないけど、こんなときに手をつないで歩けないのはちょっと辛い。
普通にオトコとオンナとかだったら、あるいは親と子供とかだったら、
人の目を気にしながらも手をつないだり抱き合ったり、そんな風にして温もりを伝えられるだろうに。
でも俺達は俺達だから、結局オトコだろうがオンナだろうが、
そんなのは関係なく素直に慰めあうことは出来ないのだろうけど。
かたたん、かたたん。
軽快な音を立てて走る電車の中。
相変わらず虚空に視線を漂わす恋次と、電車の窓の外、過ぎ行く景色を見るともなく見ていた俺。
同じ場所に居ても、互いの距離は遠くて近い。近くて遠い。
知ってるようで知らない、ここに居るようで居ない。
まるでなぞなぞだ。
「どうして笑ってる?」
いつの間にか恋次が俺を見ている。
というか、覗き込んできている。こんなときに視線を合わせてくるなんて珍しい。
「なんでもねーよ。・・・・つーかオイ!着いてるよ、降りなきゃ」
閉まり掛けていたドアを二人で慌てて押し戻し、飛び降りる。
俺の靴が挟まれて、そのまま電車のドアに食われた。
さっきまでの沈黙とか重い空気とか、そんなものをぶっ飛ばすようなヘマ。
その間抜けさ具合に大笑い。
互いを度突き合い、指差して笑う。
走り出した電車の中では、さっきまで隣に居たヤツラが呆れた目でコッチを見てる。
苦笑してるやつも居る。
糞っ喰らえ。
俺たちゃコレでいーんだよ。
だから俺はプラットフォームのど真ん中、恋次に思いっきりキスした。
抵抗する気力さえ奪うような、そんなキス。
走り去る電車の中で、知らないヤツラが指差しているような気がする。
路線沿いだからガッコーのヤツラもいるかもな。
でも知ったことか。
と思ったら頬を思いっきり殴られた。
真っ赤になった恋次。
せっかく髪隠してるのに、そんなに紅くなったらもっと目立つぞ。
年齢以上に大人振る恋次のレアな反応を楽しみながら、
ついでに15のときよりうんと縮まった距離を堪能しながら結局、腕を引いて階段に向かう。
来いよ。
こういうときぐらい、俺にもオトナの振り、させろ。
それも年上の度量ってもんだろ。
somebody special>>
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