ツンデレラ  



むかしむかしあるところに、恋次という子供がおりました。
良すぎる体格を差し引いても充分見目麗しかったのですが、
早くに親を亡くした不幸な身の上のせいか、かなりふてぶてしい性格と顔つきでした。
それが災いしてか、恋次さんは一箇所に留まることなく、あちこちを点々として食いつないでおりました。

さて、そんな恋次さんが住み込みメイドとして行きついたのは十一番街にある更木家です。
更木家はいわゆる元締めで、毎日毎日乱暴狼藉に明け暮れる十一番街、またの名を暗黒街の頂点に君臨しておりました。
今まで居つくメイドがいなかった更木家だったのですが、
身体も心もかなり丈夫な恋次さんは適任で、充分すぎるほど充実した毎日を送っていました。

「おらぁぁぁっ! 気ィ抜いてんじゃねぇっ」
今日も朝っぱらから次女の一角さんにしごかれました。
自己紹介から規則正しく始まるのですが、最後はたいてい殺し合いなのでかなり気合がはいります。

「恋次。こんなに埃が積もっていては、掃除とは言わないよ。美しくないね」
そして三女の弓親さんに掃除の指導を受けました。
清潔さだけではなく美意識も試されるので、かなり精神的緊張を強いられます。

「やっほー。おっでかけだよー!!」
最後は長女のやちるさんの荷物持ちで街へお買い物でした。
やちるさんはやたら素早い動きが身上です。
大量の買い物(主に食料品)を持って後をついていくのはこれまたシゴキといっても過言ではありません。

「・・・・・ったくよー。毎日毎日、人使いの荒い家族だぜ」
そんなこんなで恋次さんは、ますますその気性と身体に磨きをかける毎日でした。

さて、そんなある日。
いつもの日課をこなした夕食後のことです。

「あ、剣ちゃん、おかえりー!」

お父さんが帰ってきました。
決して倒れないという意味の異名・剣八の名を自分でつけちゃったお父さんは、もう見た目からして普通じゃない、とってもヤクザなオヤジです。
でも荒いので有名な十一番街の連中の尊敬と畏怖を一身に負う身です。
見かけと気性はともかく、社会的救済の手が届かない末端部分を全て引き受けるという点で、本人が意識していないにしろ、実に懐の深い人物でした。

ですが、やはり人は見た目で判断してしまうものです。本能です。
「・・・うわ」
恋次さんは今日も、その異様な風体と威圧感に圧倒されてしまいました。
そんな恋次さんを見下ろしたお父さんはニヤリ、と笑うと、
「ほら、土産だ」
と、懐の中から封筒を取り出しまして三姉妹に渡しました。

「これ、なんっすか?」
「開けてみろ」
「なんて書いてあるの、つるりん!」
「その名前はやめろっつってんだろ、このドチビ」

また長女と次女の喧嘩が始まりました。
年の近い姉妹が仲が悪いというのは世界共通の真理です。
そして瑣末な事柄には関与しない、要するに要領が良くて実は一番の権力者=末っ子の弓親さんが封を開けました。

「へええ、后選びの舞踏会だって! ボクの美しさを持ってしたら、后の座は約束されたようなものだね」

そういってサラリと髪をかきあげました。
長女と次女はそんな三女を無視して、封筒ごと奪い取りました。

「なんかすげー玉の輿だな?」
「すっごーい!お后になったらこんぺいとう、一杯食べられるよ、剣ちゃん、一緒にいこうよ!!」
「バカ、俺がヨメに行ってどうすんだ。テメーらで行って勝ち取って来い」

そう言ってお父さんはニヒルに笑いました。
三姉妹の目がギラリと妖しく煌きました。
溢れだす霊圧で、周りの景色が歪んで見えます。
どうにかしろよ、このヘンな家族、と恋次さんは思いましたが、所詮メイドの身。
何も言えません。
ひたすら奉公するのみです。

「じゃ、恋次! ボクの美しさを引き立てるようなドレスちゃんとつくっといてね!」
「ちゃんと王子さまの目にとまるようなヤツをな!!」
「つるりんはドレスよりカツラ、ちゃんとしないとダメだよ〜」
「うるせえ、このクソチビ! てめーは成長してからモノを言え!!」
「やめなよ、そんな美しくない言い争いは! どうせボクの勝ちなんだからさ!!」

三姉妹が一斉に恋次さんの方を振り向きました。
「いっちばんキレイな衣装を あたし/俺/ボク に準備すること。わかった?!」

三姉妹の声がハモりました。
やっぱりお鉢は俺に回ってくるわけかよ、と恋次さんはうなだれました。





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