ツンデレラ 3
「・・・時間?」
恋次さんは、えばりんぼ少女・ルキアさんにひっくり返った声で訊きました。
実は恋次さんはかなりテンパっていたのです。
思えば幼い頃、恋次さん達、街頭に住み着いた孤児の一群(グループ名”野良犬”)の前に突如現れたのがルキアさんでした。
その卓越した威張りん坊精神でリーダーシップを奪い取り、
それなりに平穏だった恋次さんたちの生活を掻き乱し、そのくせ早くに貰い手がついて消えていったルキアさん。
多少M気質の恋次さんにとってルキアさん(属性:S)は、ある日突然舞い降り、春風と共に去っていった天使のような存在だったのです。
・・・もう一生会えない俺の星、と恋次さんは思っていました。
それなのにルキアさんは突然、貧乏暮らし代表職・住込みメイドとなった恋次さんの前に現れたのです。
恋次さんが、こんなに動揺するのも無理はありません。
家政婦コスじゃなくてよかったぜ、と安心するぐらい混乱していました。
ずっと思い出の中で星のように煌いていた憧れの初恋の美少女・ルキアさんとの再会がこんな形で果たされるなんて!
恋次さんの体の割りに繊細な心臓は、バクバクしっぱなしでした。
一方、ルキアさんの方にに全く動揺は見られませんでした。
おのずと位置関係が分かってくるというものです。
「うむ。私は今、十二番街の浮竹財団で働いておる。その定時が12時なのだ」
「ってあの有名な?」
「フフ。驚いたか。とにかくコレをみろ」
ルキアさんは手に持っていたウサギと思しきモノを模した電話みたいなものを大げさに取り出しました。
「なんだ、そりゃ? ケータイか?」
「ふふふ、よく聞け!」
そういってルキアはスケッチブックをえばって取り出しました。
遠い昔とはいえ、ルキアの現実能力認識に深い造詣を持つ恋次さんのことです。
いやちょっと待て、余計分からなくなるぞと思いました。
すると丁度いいところにオレンジ頭が割り込んできました。
「テメーは黙ってろルキア! 俺から説明するからよく聞け」
「貴様は黙っていろ、一護」
むっとしたオレンジ頭をそっちのけで、またルキアさんが話し出しました。
「こいつは臨時雇いで黒崎一護という。余所者のクセに好き放題やってな。
あちこちを壊して回ったので、仲間と一緒にいろいろと雑用を努めてもらっておる」
「・・・な! テメー、ルキアっ! テメーを助けようとしてあんなことになったんじゃねーか、あァ?!」
「だまれ。全て貴様のでしゃばり体質のせいではないか!!
貴様が大人しく私の言うことを聞いて引っ込んでおれば、
私はボロウに手傷を負わされることもなく、挙句に貴様に能力を吸い取られることなく、
ましてやあのヘンタイ浦原に騙されることなく、無事務めを果たして国に戻り、
長期連載になることもなく話は終わっておったのだ!」
「いや、まあ、そういわれればそうなんだけど、身も蓋もないっつーか、伏線は丸無視かよっつーか・・・」
「分かったのならさっさと働け。働いて借りを返してから国に戻ると良い」
なんだかルキアさんは、知らない間にずいぶんと威張り能力に磨きをかけたようです。
他人にこき使われるだけですっかり手下体質に成り下がった恋次さんはちょっと悔しく思いました。
それと同時に、ぶつぶつ文句をいいつつこき使われてる一護さんの姿が、
運命の波に翻弄される自分の姿を髣髴とさせたので、恋次さんは親近感を持ちました。
いわゆる同じ穴のムジナとか同病相哀れむとか、そういう感じです。
「そういうわけで、コレはボロウを察知し、不幸度を計れるスーパー伝令辛機だ!
そして喜べ。貴様が今夜の不幸、一等賞だ!!」
どういうわけなんだよ、それに不幸一等賞って喜ぶことなのかよと恋次さんは思いましたが、
こんなにノリノリのルキアさんに逆らっても仕様がありません。
もう黙っておこうとため息をつきました。
それを黙って見ていたオレンジ頭の一護さんは、
「・・・・・オイ、テメー、何か言うことはねーのかよ」
と恋次さんに訊きました。
恋次さんとしては腹の底に一杯溜まったものがあったのですが、もう吐き出せないのが習慣になっています。
だからもう一回深いため息をついて、目を逸らしました。
猪突猛進の典型の一護さんは、そんな恋次さんの態度にいらぁっとし、何か煮え切らないものを感じたのですが、
当座の雇い主・ルキアさんの暴走振りがただ事じゃないのに気を取られ、その何かの正体を見逃してしまいました。
混乱が混乱を呼んで、しかも初恋に破れそうな予感の恋次さん。
そんなキミに幸せの青い鳥は訪れるのか?!
もしやソイツは青色ではなくてオレンジ色のたんぽぽ頭ではあるまいな?!
そこんとこは、
>> ツンデレラ 4 へGO!
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