ツンデレラ 4
さて、肝心の暴走ルキアさんですが、
「今回は幸福ゲージ、あがりそうだな!!
ずいぶん点数が高いボロウのようだ。見てみろ、コヤツのボロボロ具合を!!
大手柄だ!! 隊長も海燕殿も喜ぶぞ!」
とボロボロの恋次さんを指差して大喜びです。
相変わらずルキアさんは周りが見えない人で、よく言えばマイペース、悪く言えば自己中でした。
恋次さんの思い出の中で星と光っていたルキアさんですが、
そういえばそうだったよなーと恋次さんは冷静に目の前のルキアさんを見ることにしました。
つまり、現実をしっかり見る、というヤツです。
これでバクバクしてた心臓も一気におさまりました。
遠い昔、ルキアさんと過ごしたあの懐かしくも甘酸っぱい時はキレイな思い出として、
心の中の大事な宝箱かなんかにしまい込みました。
つまり記憶の封印、自己防衛です。
初恋は初恋のまま、美しい記憶として留めていたほうがいいというのも世界共通の真理だったのです。
これでようやく、恋次さんの空転してた回想と現実が一致しました。一安心です。
さて、それぞれが暴走しているこの二人を外側から見ていた単純青少年一護さんは、
恋次さんの特徴的な紅い眼に浮かぶ複雑な色を見て、複雑な気持ちでこう思いました。
オトナの世界って違うなあ。
アタリマエです。
いろいろオトナは大変なのです。
たとえそれが未発達貧弱体型であろうと、ボロボロなメイド服コスであっても、オトナはオトナ。
たかが15,6歳のオトコノコに理解できるわけはないのです。
ましてやマザ魂でシス魂の一護さんにまだ思春期は訪れたばかり。
興味あることといえば食う寝るケンカするで、仲のいい特上の女の子に思いを寄せられてもあっさりスルーな日常。
体はともかく頭の中はまるっきりの子供だったのです。
さて、そんな半コドモ的青少年は放っておいて、
すっかり成長しきった幼馴染達は冷静に大人の会話、つまり商用取引を始めました。
「つまりボロウを取っ払い、宿主たちを幸せに導いてやるのが役目なのだ」
「待て、大体そのボロウって何なんだよ、つか宿主って俺かよ」
「貴様、不幸の星の下に生まれたという自覚はなかったか?
ボロウは、簡単に言えば貧乏神みたいなものだ。人々の運と幸せを食ってしまう。
襤褸(ボロ)をまとった兎の姿をしているから襤褸兎という。 霊力がないと見えぬがな」
「ってそれ、いつもその辺、ウロウロしてるアレか?!」
「おお、貴様にも見えたのか! とにかく其奴のせいで、貴様はこの世で一番不幸になってしまったのだ!!」
「って俺かよ? 俺が一番不幸なのかよ?!」
「うむ。そういうことだ。心配は要らぬ。我らに任せておけ!」
どん、とルキアさんは薄い胸板をたたき、笑いました。
これ以上なくなったらどうするんだ、と恋次さんは思いましたが、口に出さない方向に決めました。
「しかしボロウを追い出すのには、我々の力だけでなく、貴様の幸せになりたいという気持ちが重要だ。
言って見ろ、貴様の望みはなんだ?!」
・・・望み。
そんな人に威張れるほどの大層な望みは持ったことありません。
将来の展望とか、出世欲とか、そういうものとも無縁です。
とりあえず、屋根のあるところで暮らせて、飲み食いできればいいのです。
それがずっと望みだったので、今の生活は厳しいとはいえ、とてもありがたいと思っていたのです。
恋次さんは、かなり派手な見かけですが、実のところかなり地味な性格でした。
でも、ほんの一つだけ、望みがあるとすれば、それは・・・・。
「・・・・・俺、舞踏会に行ってみたい。そんで・・・」
「舞踏会って今開催されている后選びの舞踏会か?!」
「つかテメー、后になりたいのかよ、マジかよ?!」
ルキアさんも一護さんもびっくりしました。
とてもそういう大層なことを望むタイプには見えなかったのです。
でもルキアさんは嬉しく思いました。
憧れの海燕先輩に手柄を見せるチャンスです。
あまつさえ恋次さんのこの思い切ったボロボロ具合に感謝さえしました。
一護さんは一護さんで、この一見ふてぶてしい、
それでいてどこか引っかかるメイドが幸せになれるのならそれもいいなあ、と単純に嬉しくなりました。
なにしろ一護さんは過剰なボランティア精神に溢れる少年だったのです。
「腕が鳴るな、一護!!」
「ああ、そうだな!
大体、不幸なヤツラの望みってのは、やたらでかいかやたら小さいかのどちらかだからな!!
昇華させるのも一苦労なんだけど、今回は現実的だし、うまく行きそうだぜ!」
「悔しいが、見事!! 任せておけ、恋次!!」
ルキアが親指を立てて振り向きました。
いや、后になりたいんじゃなくて、鯛焼きその他のご馳走を腹いっぱい食いたいんだけど、という、
恋次さんの地味な本音は結局口にされないまま、「舞踏会へ行って ヨメの座を勝ち取ろう」委員会が発足されました。
あっさり初恋に破れ、あまつさえ出世のダシにされようとしている恋次さん。
運命の波にどんぶらこっこと流されはじめた恋次さんに明るい未来はあるのか?
というか本当に恋次さんは幸せになれるのか?!
そこんとこは、
>> ツンデレラ 5 へGO!
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