ツンデレラ 5
 

 
 
「まずは衣装だな?」
「そうだな。流石にこんなにボロボロではな・・・」
「舞踏会ってーぐらいだからまだ他にも仕込まなきゃいけねーもんがイロイロあんだろ」
「ああ、だがもう時間もないし、ほかに仕込めることといったら・・・」

そう言って二人が振り向きました。
一気に注目を集めた恋次さんはどっきりしました。

「オラ、気ィ取られてんじゃねーっ!」
「お、おう」

コンさんがきいきい声で叫んだので、恋次さんは慌てて向き直りました。
採寸の最中だったのです。
とはいっても所詮、手足の短いぬいぐるみのコンさんでは、肉厚の恋次さんの胸囲とか胴囲とか測れるわけがありません。
コンさんの孤軍奮闘(あるいやヤケッパチ)の結果、恋次さんは、採寸用の紐でぐるぐる巻きになっていました。
その姿を見た一護さんとルキアさんはため息をつきました。

 
「・・・おいコン! テメー、採寸だろ、採寸! 縛り上げてどうすんだ、ったく・・・」
「まったく貴様はなんのプレイを企んでおるのだ」
「・・・は? ルキア、テメー今なんて言った?」

「もうヤダ! 何で俺様がこんな貧乳を計んなきゃいけねーんだよ、地獄だぜ全くよぅ!!」
コンさんは叫びました。

泣き叫びつつグルグル紐を巻き続けるコンさんを見てルキアさんはため息をつきました。
「・・・・・仕方が無い、一護、貴様が手伝ってやれ」

「俺のツッコミはスルーかよ? つか俺かよ?! 何でテメーがやんねーんだよ、ルキア! 一応女だろう!」

ガスッ!!

「一応だけ余計だ。私はそのような下々の教育は受けておらぬ。それにコヤツを見ろ」

二人は、半裸になった恋次さんをみました。
恋次さんは着やせするタイプなのです。
脱いだら肉厚でスゴイのです。

「・・・確かに。テメーの短い手足じゃ届かねえ・・・って痛え! 殴るなコラっ!!」
「そういう問題ではない。貴様は一言多い。命を縮めるやもしれんぞ?」

ルキアさんの周囲数メートルには、天に向かって氷雪系のブリザードが吹き荒れる筒状の無法地帯ができていました。
この国で一番美しいとされてるとは言え、氷漬けになるのはまっぴらです。
一護さんはビビって、以後気をつけさせていただきます、と下手に出て事なきを得ました。
 
「さて、と。しょーがねえ。やるか」
 
気を取り直し、一護さんは恋次さんの紐を解きにかかりました。
近くで見るとより一層見事な筋肉です。
またメイド服の上からだとわかりませんでしたが、額だけではなく、上半身一面に墨が入っています。
 
「なんか、すげーな、これ! 刺青かよ?」
 
思わず感心して叫んでしまいました。
けれど恋次さんはそっぽをむいたまま、ああと短く答えただけでした。
なんだよその態度、大体誰のためにこんなことやってると思ってんだよと一護さんはむっとしました。
でも時間もないことですし、ルキアさんもにらみつけてることですし、黙って作業に戻りました。
 
結構きつく巻かれていたみたいで、縛られた痕が赤く痕が残っています。
痛々しいのですが、刺青の黒とあいまってとても不思議な模様になっています。
引き寄せられるようにすっと指で痕を辿ると、恋次さんがイテっと呻きました。

「あ、ごめん。つい・・・」
「・・・いや、べつに痛くないし」
「痛くないか?」
「こんなもん、傷にも入んねえ」
「そっか・・・」

恋次さんはびっくりして一護さんを見つめました。
今まで恋次さんの心配をしてくれた人など皆無だったのです。
それをたかが紐の痕ぐらいで、しかも一護さんがしたことでもないのに謝られて、何と返していいのかわかりません。
一方で一護さんも、さっきまで尖った雰囲気だった恋次さんの素の表情をみて、何だかドキドキしてしまいました。
不思議な沈黙が落ちました。

「じゃ、じゃあ、採寸するから、腕、あげてくれよ」
「・・・ああ」
 
なんとか作業は再開しました。
が、一護さんの戸惑いは深くなる一方です。
肌には大小の傷がいっぱいついています。古傷もあれば新しい傷もあります。
顔もすすだか汚れだか分からないものでぐちゃぐちゃですし、はっきり言って薄汚いのです。
それにメイド服はツギが一杯あたっていて、色も褪せています。
 
一体何があったんだろう。 痛くなかったんだろうか。
世界で一番不幸って、どんな気持ちなんだろう。
寂しくないんだろうか。
一護さんは胸囲を測るフリをして、恋次さんの顔を見上げました。

一護さんは、ぶっちゃけ余計なお世話体質で、頼まれてもいないことを引き受けて、
責任の重みで更に暴走するという自給自足型、ついでに言えば、とても自虐的な性格でした。
それがどうやら発動されたようです。

恋次さんは、憂いを含んだ瞳で外をじっと見つめていました。
視線の先にはお城の光。
 
そんなに舞踏会に行きたいんだろうか。
行ってお后になってしまうんだろうか。
見たことない、この国の王様の横で幸せに微笑むようになるんだろうか。
 
一護さんの心臓が跳ね上がりました。
なんだかそれはイヤだ、と一瞬思ったのです。
王様じゃねえ、俺がこの手で!と思った自分がいたのです。
一護さんはぶんぶんとアタマを振って、そんな自分を否定しました。
だってそんなはずはないのです。
そんな自分は知りません。
皆に平等に、助けるなら世界の全てを!をモットーでやってきた自分です。
こんな風に特定人物にのみ向けられてはいけない。 それがボランティアの真髄なのです。

「こんちくしょうっ!!」

一護さんは大声で叫びました。
恋次さんのきょとんとした目とまた目が合ってしまいました。
胸の中には、なにやら得体の知れぬ甘酸っぱい思いがグルグルと渦巻き始めました。
それを振り払うように一護さんはアタマをがしがし掻き回しました。

「モタモタしてんじゃねえ、さっさと計るぞっ」
「お、おう」

恋次さんは、あまりに挙動不審な一護さんに警戒心を抱き、腹減ったと言い損ねてしまいました。
視線の先にはお城の光。
あそこでは皆、旨いもん、たらふく食っているんだろうなあ・・・!
恋次さんの肉厚の胸がまた、きゅんとしました。

そんな切なそうな表情の恋次さんを見て一護さんの胸がきゅんとしました。
その正体が、遅めの思春期の洗礼・男性ホルモンの大量放出とも知らず、
一護さんはただただ作業に没頭し、自分を見つめる機会を逸してしまったのでした。




疾風怒濤の思春期の波で勘違いの王道をつっぱしる一護さん。 腹が減ってなにも考えられない恋次さん。
そんな二人に未来はありそうにないが、とりあえず舞踏会に行ってみよう! ってな感じで続きは
>> ツンデレラ 6 へGO!
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