ツンデレラ 6
 

 
 
「やっとできたか」

一護さんが大騒ぎでやっとのことで終えた採寸データ。
それを首の周りに巻きつけてもらったコンさんをルキアさんがガッシと掴みました。

「では頼むぞコン」
「ほいきたネーサン! って投げないでぇぇぇぇぇぇぇ・・・・・」

コンさんは遠い夜空に星と消えました。

「これでヨシ!!」
「っていいのかよ?! 届くのかよ?!」
「さて恋次。足を出せ」
「って俺はまたスルーかよ!!」
「足ィ? 何すんだ」

真っ当なツッコミを続ける一護さんのことは放っておいて、幼馴染二人はどうやら違う作業段階に入ったようです。

「うむ。資料(ペロー原作)によると、履物はガラス製が縁起がいいらしい。
 目立つところで踊って、最後にガラスの靴を置いてきて気を引くという寸法だ」
「・・・・ってルキア!それ汚いだろう! そんなんでいいのか? 仮にもこの国の王様と后様だぞ?!」

叫び続ける一護さんを、ルキアさんは冷たい目で見ました。

「ふふふ。そういうものなのだ。世の中とは!」

その通りです。
后になるということは、ヨメとして頂点を極めるということ。
ある意味、オンナの中のオンナになる、権力の中の権力を掴むということです。
なんてったって待ち受けているのは権謀術数の大渦、大奥です。
そんな限りなく黒に近い灰色な社会で、キレイな手ばっかり使って生き残れるわけはありません。
命は平等じゃないし、機会も均等ではない。
見かけと凹凸はともかく、酸いも甘いも噛み分けたオトナの女性・ルキアさんにとっては、ごく当然の現実でした。
でも、見かけはヤンキー@心はピュア(童貞疑惑あり)な一護さんは居ても立ってもいられません。

「テメー、ルキア! そんなんで勝ってもダメだろう!! やっぱり世界は、仲間、努力、そして勝利なんだ!!!」
「何を青臭いことを言っておるのだ、一護。
 どこかの少年跳躍雑誌のコンセプト(しかも調査実施は数十年前)ではあるまいし。
 そんな古臭いことを言っておってはこの厳しい世の中、女一人も手にできまいぞ?」

一護さんの顔にガーーーッと血が上りました。
なんて汚いことをいうのでしょう!
言語道断です!!
しかも女一人も手に出来ないとは核心をつきすぎています!

「んだとルキア、テメー・・!」
「おい、まあ止めとけよ。えっと・・・、黒崎っていったっけ」

黙って聞いていた恋次さんが、いきりたつ一護さんの肩に手をかけました。

「・・・恋次」
「いきなり呼び捨てかよ。まあいい、こうなったルキアには逆らわない方がイイ」

一護さんは他人との距離が1か0か、かなりデジタルな人物でした。
仲良くなったと思ったら、独断で名前呼び捨てに移行するのが主義でした。

一方で恋次さんは、あまり深くモノゴトを考えない人でした。
だからこういう興奮した人物達についてはスルーした方がいいと思ったのです。
一護さんの呼び捨てはともかく、
ルキアさんについては、小さな子供に過ぎなかったあの頃とは違うのだということは余り考えずに。

「・・・・・ルキアは思いつめる性質だから、一途なんだ」
「なんだよ、その超好意的解釈! 
 ルキアは自分の出世のためにテメーの后の座を勝ち取りたいだけなんだぞ?
 いいのか? オマエは本当にそれでいいのか?!」
「つか仕様がねーだろ。こうなったら誰にも止められねーぞ?」
「やってみればいいじゃねーか!」
「俺は、ルキアが幸せだったら・・・!(ついでに城でたらふく食えたら・・・!)」

「・・・こんのバカ野郎っ!!」

一護さんの悲痛な叫び声に、食いたいだけの本心を見破られたかと、恋次さんはドッキリしました。
けれど酷く真剣な一護さんの眼差しに、恋次さんは圧倒されました。

そんなんじゃねえ。
コイツは本当に俺のことを心配してるんだ・・・。

こんなに他人のことで一生懸命な人は初めてです。
決して自分の利益にはならないのです。

なんてバカなんだろう・・・!

恋次さんは自分以上のバカを見つけてちょっぴりほっとしました。
こんな安らぎは初めてです。
一方で一護さんは、恋次さんが抱く淡い恋心に気づいてしまいました。

コイツはルキアが好きなんだ・・・・。
だからルキアのために后の座につきたいと、そういう健気なことを思ってるんだ。
こんなガタイでこんな刺青だらけで世界で一番不幸のクセに・・・!

超絶お兄ちゃん気質の一護さんは、ある意味とても天然でした。
強そうなくせにボロボロで、しかもかなり天然っぽい恋次さんの反応に、一護さんの保護欲は刺激されまくりでした。
知らず知らず「コイツは俺が護ってやる!」のいつもの誓いがなされてしまいました。
こうなると、迷走は止まりません。
分泌されだしたばかりの男性ホルモンの追い風まで受けて、まさに順風満帆というやつです。
二人は見つめあいました。
その想いが全く噛みあっていなかったのは神のみぞ知る事実ですが、あまりストーリー展開には関係ありません。

と、そこへコンさんが帰ってきました。

「たぁぁぁぁぁぁぁぁっぁだいまっスゥ!」
「うぉっ?!」

不幸の星に照らされた恋次さんは、ここでも飛ばされて帰ってきたコンさんの直撃を受けました。
ヌイグルミとはいえ長距離を滑空した勢いもあって、
かなりのダメージを恋次さんは喰らい、床にどおおっと倒れてしまいました。
何しろウェイトがあるのです。

「おいっ! 大丈夫かよ、恋次!」
「いてててて・・・」
「どこ打った? ここか?」
「いや、別に・・・」
「何ビビってんだよ、悪くしねえから言ってみろ。ここか?」
「だ、だから放っといてくれって!」

延々と続ける一連の一恋会話に、コンさんはキレそうになりました。

「・・・ネーさん、これ一体、どうなってんスか?」
「知らぬし関係ない。さあ、ドレスを出せ!」
「ネーさん! その鬼っぷりが素敵ッス!ってイヤー!踏まないでぇぇぇ!!」
「全く、どいつもこいつも煩い。と、これか。ふむ、イイ出来だ。さすが雨竜!」

ルキアさんは、濡羽色に輝く黒い衣装を手に叫びました。

「いざ出陣! 参るぞ、恋次。そして后の座を勝ち取るのだ!!」




というわけで舞踏会も城も遠い。
なかなか辿り付けないあの城は幻か、いや、蜃気楼か?
とにかく足を確保してさっさと舞踏会に強制参加しちゃおうぜっ! ってな感じで続きは、
>> ツンデレラ 7 へGO!
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