ツンデレラ 7
「・・・コレを着ればいいのか?」
恋次さんは衣装を手に取りました。
うっとりとしたその表情に危機を感じた一護さんは叫びました。
「恋次! 着るな! 着れば后になっちまうんだぞ?」
「・・・后に?」
「そうだ! ルキアのためじゃねえ、自分のために生きたいとか思わねえのか?!」
「・・・自分のため?」
后になっちゃいけないのか? それに自分のためって一体?
一護さんの言葉に恋次さんの動きが止まりました。
恋次さんの単純な頭とアイデンティティにはちょっと難しすぎたのです。
しかしそのリアクションを自分の言葉に耳を貸したためと思った一護さんは調子に乗りました。
「そうだ。その衣装をこっちの寄越せ、恋次」
「何でだ? 何がいけないんだ?」
「いいから寄越せ!」
無駄に自信たっぷりの一護さんを前に、明らかに恋次さんは迷いだしています。
まずい。このままでは止めるとか言いかねん。
そう思ったルキアさんは、さっさと手を打ちました。
「舞え、袖の白雪」
一護さんは氷付けにされてしまいました。
すぐ側にいた恋次さんは、日頃の鍛錬の結果か、見事に避けることが出来ました。
ありがとう、一角さん!
心の中で感謝しながら恋次さんは衣装を抱きしめました。
羽のように軽く、烏のような光沢、そしてなんともいえない肌触り。
今までボロしか着たことのなかった恋次さんは、なんだかドキドキしてしまいました。
既に氷柱の中の一護さんのことは思考の外です。
だって一護さんはイイ人みたいだけど、食べ物をくれるわけではないのです。
それに恋次さんを混乱させる一方で、恋次さんは何だか苦しくなってしまうのです。
けれどこの衣装は、恋次さんを后の座へ導いてくれるのです。
この衣装を着たら、后になって、たいやき食い放題だ・・・!
見事な三段論法です。
恋次さんは渡された衣装に恐る恐る袖を通そうとしました。
「・・・待て、恋次!!」
なんと、まさかのルキアさんがストップをかけたのです。
まさか良心の呵責とか、そんな奇跡が起きたのでしょうか?!
「貴様、臭い。まず風呂に入ってその小汚い体をどうにかしろ。縞々ではないか!」
「縞々じゃねえ! 刺青だ!!」
「喧しい、似たようなものだ。とにかくその汚れだけは落として来い。コン、ついてってちゃんと綺麗になるかどうか見張ってろ」
もちろんコンさんは行きたくありませんでしたが、氷の中で必死の表情を浮かべたまま凍っている一護さんを前にしては言葉もありません。
「不肖、コン! 無事責務を果たしてくる所存です! ホラこっちこい、貧乳!」
「うおお?!」
ようやく静かになった屋根裏部屋で、ルキアさんはため息をつきました。
「さて、準備でも進めるか」
そして、ピ・ポ・パと伝令辛機のボタンを押しました。
「ああ、私だ。朽木だ。少し頼みがあるのだが・・・」
階下から聞こえるドタバタ騒ぎを横に、ルキアさんは淡々と事務処理を進めていきました。
◇
さて。
待望の入浴シーンですが、サービスなし、ただの格闘になっていました。
「てめぇっ! もっとキレイに洗えっつってんだろ?!」
「洗ったじゃねえか!」
「湯を流しただけじゃねえか、ちゃんと石鹸使え!」
「石鹸使ったら刺青が落ちるじゃねえか!」
「んな訳、ねーだろ?! オマエ、バカだな? 本当のバカだな? それともアレか? それは唯の落書きか?!」
「うおお、やめろーーーーっ!!」
早く終わらせたい一心のコンさんは「俺様は洗車機だ、コイツが平たいのは鉄板だからだ」と自分に言い聞かせました。
水を吸った綿のボディにも関わらず、自慢の下半身を活かしてピョンピョン飛びつつ、床掃除用のタワシでガッシガッシ巨体を洗いました。
「ネーサァン!! 出来ましたぁ!」
「ふむ! いい出来だ! 衣装を着けてみろ」
鏡に映った自分を見て恋次さんはびっくりしました。
「これが俺・・・・?」
コンさんはものすごくがんばったし、やれば出来るオトコノコなのです。
弓親さん秘蔵のトリートメントやコスメティックもほぼ使い切りました。
分厚い垢の層が日焼け止めになっていたらしく、すっかり剥けて白くなった肌には漆黒の衣装が良く似合います。
髪だってアジアンビューティも真っ青、サラサラのまっかっかです。
そして襟元には極めつけ、チラリズムの墨。
「これならイケルかもかもしれん・・・!」
ルキアさんはニヤリと黒く微笑みました。
「行くぞ! ついて来い、恋次、コン!」
「ねーさん、一護のヤロウはどうするんで?」
「放っておけ。少し頭を冷やしておくといいのだ。明日まで溶けぬ」
ルキアさんは冷たい一瞥を氷柱にくれた後、階段へ向かいました。
部屋を出ようとした矢先、恋次さんは氷柱を振り返りました。
一護さんは明日までこの冷たい氷の中に閉じ込められたまま。
そしてそれは多分恋次さんのせいなのです。
恋次さんはそっと手を伸ばしました。
その指先が硬く冷たい氷の表面に触れた途端、
「恋次! 早く来いといってるのがわからぬのか貴様!」
ルキアさんの怒鳴り声が響いたので、命令されなれてる恋次さんはビクっとして階段に走り出しました。
すっかり静まり返った屋根裏部屋で、氷柱は孤独に月明かりを受けていました。
そして凍りついた一護さんの目には何も映ってはいませんでした。
せっかくのシャワーシーンも水戸のご長寿番組の某くのいちにさえ負けるほどの色気ナシでスルー! (これ以上長くなってはたまらん)
そんなことで后になれるのか?
というか氷付けになるなんて本来の主人公、情けねえ!
兎にも角にも次回はお城襲撃!ってな感じで続きは、
>> ツンデレラ 8 へGO!
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